ポーズモードはタッチスクリーンを上から下にスワイプすると起動する。起動すると四つの縦線が表示される

いまや市場にすっかり定着した加熱式たばこ。コロナ禍や法令改正なども後押しして、紙巻きからの乗り換えは一段と加速した印象を受ける。そんな市場を牽引してきたフィリップ モリス ジャパンのIQOSは今年10周年を迎えた。3月13日には、東京都・港区の八芳園で発表会を開催。新シリーズ「IQOS イルマ i」がお披露目された。どのような進化を遂げているのか、筆者のレビューも交えながら解説していく。

これまでにない喫煙体験を実現した「IQOS イルマ i」シリーズ

「IQOS イルマ i」シリーズは、現行の最新モデル「IQOS イルマ」をベースに進化した製品だ。スマートコア・インダクション・システム(スティックの内側からたばこ葉を燃焼させる機構)やデザインは踏襲しつつ、四つの新機能を搭載した。

まずは、使用中に最大8分間の一時停止ができる「ポーズモード」だ。たばこを吸っている途中でちょっとした用事が発生してすぐにたばこを消した、という経験は喫煙者なら誰しも経験があるだろう。ポーズモードを使えば、こうしたシチュエーションでもたばこスティックを無駄にせずに済む。

次に最大4パフを追加できる「フレックスパフ」だ。1本のたばこスティックあたりのパフ数は14パフと決められていたが、新製品では吸い方に応じて最大4パフが追加され、より長くたばこを楽しめるようになった。

同じフレックスを称する「フレックスバッテリー」も新しい機能だ。これはIQOSアプリでホルダーのバッテリ設定を変えることができるというもの。初期モードはパフォーマンスモード(ポーズモード使用なしで連続3本、ポーズモード使用ありで連続2本)だが、新たな選択肢としてエコモード(ポーズモードは使用不可で1本のみ)を用意。IQOSの寿命は約2年だが、エコモードを使用すればこの寿命を延ばすことができる。

インターフェースにおいては、タッチスクリーンを新搭載した。指先で画面を下にスワイプするとポーズモードを起動、上にスワイプするとポーズモードから再開、5回タップするとタッチスクリーンの明るさを切り替えることが可能だ。スクリーンではLED点灯のパターンによって、加熱ステータスや残りの使用時間、残りの使用本数などを確認することもできる。

IQOS イルマとの違いは?各ラインアップのスペックを深掘り

IQOS イルマ iシリーズは「IQOS イルマ i プライム」、「IQOS イルマ i」、「IQOS イルマ i ワン」の3モデルをラインアップする。

構成自体は従来のIQOS イルマシリーズと共通している。新機能を搭載しているのはIQOS イルマ i プライムとIQOS イルマ i。IQOS イルマ i ワンは新機能を備えていないが、スティックを挿し込むと自動で起動するオートスタート機能に初めて対応した。本体下を覆う素材に凹凸が追加されたなどのデザインにおける微妙な変化もみられる。

新機能以外にも進化はみられる。IQOS イルマ i プライムとIQOS イルマは、連続で使用できる回数がこれまでの2回から3回に増えた。シンプルながらすべてのユーザーにメリットがある実用的な進化といえるだろう。

充電サイクルは20回ごと、充電時間は約2時間15分、加熱時間20秒という部分に変更はない。使用時間は6分または14パフとしており、新機能のフレックスパフによってこれに4パフ追加される可能性もあるという仕様だ。

IQOS イルマ iシリーズのメーカー希望小売価格は、IQOS イルマ i プライムが9980円、IQOS イルマは6980円、IQOS イルマ i ワンが3980円。

現行のIQOS イルマシリーズと同じなので、置き換わる形になるかと思いきや、しばらくは併売するとのことだった。基本的にはスペックアップしたIQOS イルマ iを買うべきだろうが、あえて現行モデルを選ぶ唯一の理由はカラバリが異なることだ。

IQOS イルマ i プライムはブリーズブルー/ガーネットレッド/ミッドナイトブラックの3色展開、IQOS イルマとIQOS イルマ i ワンはブリーズブルー/デジタルバイオレット/ビビットテラコッタ/ミッドナイトブラックの4色展開。全体的にポップなカラーになっており、もし現行の淡いカラーが好みであればそちらを選択するというのもありだろう。

なお、発売日は販路によって異なり、IQOSオンラインストアやIQOSストア、全国のIQOSコーナーでは3月13日、空港の免税店では3月14日、主要コンビニエンスストアと一部のたばこ取扱店では4月16日から順次となる。

実際に使って分かった!新機能の良かった点・気になる点

実際にIQOS イルマ iシリーズを使って良かった点・気になる点も紹介しておきたい。

まずは、多くの人が気になっているであろう「ポーズ機能」についてだ。ありそうでなかった機能だが、筆者が真っ先に気になったのは「味が落ちないか」ということだった。一度消した紙たばこに再度火をつけるような雑味のある風味になるのではないか。

しかし、この点はまったく問題はなかった。ポーズモードによる一時中断を経て再加熱したたばこでも、最初に吸った味わいそのままに喫煙を楽しむことができた。一時停止できるのは最大8分までとのことだが、ちょっとした中断というシチュエーションを想定していることを考えれば十分な長さだろう。

気になったのは、ポーズ機能についていくつかの縛りがあり、それがユーザーに複雑な印象をもたらさないかということだ。まず、ポーズ機能は「最初の3分間もしくは8パフに達する前まで有効」という条件がある。設計上、仕方ないと納得する部分ではあるのだが、吸っている時間や回数をいちいちカウントしているユーザーはいないので、いざ使おうとしたときに起動しないケースは大いにありそうだ。

ポーズモードを使用すると連続で吸える本数が1本減るという注意点もある。再起動でも同じようにバッテリを消費することを考えれば、こちらの仕方のない事象なのだが、慣れるまでは「あれ?もう1本吸えないの?」と戸惑うことはあるかもしれない。

また、ポーズ機能はパフォーマンスモードでのみ有効で、新たに備わったエコモードでは無効となる。どちらも新しい機能ながら、両方は選べないというのは少し分かりにくいかもしれない。

フレックスパフについては、現時点ではまだ評価が難しい。というのも、この機能はシステムによって制御されており、作動するかどうかは個人の使用パターン次第、それも毎回作動するとは限らないからだ。

どうすればフレックスパフが作動するのか、恩恵を最大限受けるためにはそのあたりの匙加減をつかむ必要があるだろう。

少し使用した感じでは、早いペースでちょこちょこパフする(短い時間でパフ数を増やす)とパフ数が増えるように感じた。逆に時間をかけて喫煙する人にとっての恩恵は少ないかもしれない。このあたりはさらに使い込んで検証したいところだ。

タッチスクリーンについては、実用性においても見た目においても非常に満足のいくものだった。加熱が完了するまでの時間や残り使用本数の可視化は従来のストレスを幾分軽減してくれそうだ。

あとは単純にデザインが良く、所有欲をくすぐられる。デバイスを着飾るアクセサリ(IQOS イルマ iシリーズとIQOS イルマシリーズで共通)も新たに22種類が追加されるので、おしゃれアイテムとしての楽しみ方はかなり幅が広がりそうだ。

ヤツェック・オルザックCEOが登壇、日本市場への思いを語る

今回の発表会では、同社グローバルCEOのヤツェック・オルザック氏が登壇したことも大きなトピックだった。日本でプレゼンテーションの場に立つのは初だという。

オルザックCEOは「2024年に世界に先駆けて日本で先行販売し、驚くほど早いペースで加熱式たばこを受け入れてくれたことに感謝したい」と述べ、「10年、もしくはそれより早いタイミングで日本に煙のない社会を実現する」と抱負を語った。

同社の2023年第4四半期決算資料によると、23年12月末時点の世界のIQOSユーザーは約2860万人。そのうち、日本市場は約3割にあたる約850万人を占める。IQOS イルマ iを日本で先行販売することからも、10年前と変わらず最重要市場に位置付けていることが分かる。

「煙のない社会の実現」という当初からのビジョンにも変わりはない。現在、日本を含む25の市場で煙の出ない製品による純売上高は全体の半分を超えており、紙巻きから加熱式への切り替えは順調に推移している。

オルザックCEO は「2030年までに煙の出ない製品で純売上高の3分の2以上を目指す」という具体的な目標を掲げ、ビジョンの達成に向けて取り組んでいく意思を改めて強調した。(フリーライター・小倉笑助)

小倉笑助

家電・IT専門メディアで10年以上の編集・記者経験を経て、現在はフリーライターとして家電レビューや経営者へのインタビューなどをメインに活動している。最近は金融やサブカルにも執筆領域を拡大中