(左から)荒木伸二監督、若葉竜也 (C)エンタメOVO

 朝6時、いつものように目覚めた岩森淳は、恋人の砂原唯(山下リオ)を殺した溝口登(伊勢谷友介)を殺害する。翌朝目覚めると周囲の様子は昨日のままで、なぜか溝口も生きている。そして今日もまた、岩森は復讐(ふくしゅう)を繰り返していく。荒木伸二監督が、自身のオリジナル脚本で撮り上げたタイムループサスペンス『ペナルティループ』が、3月22日から全国公開される。荒木監督と、岩森を演じた若葉竜也に話を聞いた。

-監督、タイムループものはこれまでも結構映画になっていますが、今回の形は非常に珍しいタイプのものでした。このアイデアはどこから生まれたのでしょうか。

 自分の中にうごめく情念みたいなものが、もしかしたらタイムループもので表現できるのではないかと、ある日思い立って企画を始めました。で、せっかくタイムループものを作るなら、誰も見たことがないようなものを作りたいと思いました。もうこの後には誰もタイムループものを作ろうとは思わなくなるような。でも、やっぱり考えていくと、大体似てくるんです。そこから抜け出そう、新しいものにしよう、もっと何か訴えかけられるものにしようというふうに考えてやっとたどり着きました。

-若葉さんは、最初に脚本を読んだ時の印象はいかがでしたか。

 この映画のオファーを頂いた時は、ちょうどコロナ禍の真っただ中で、エンタメ業界も映画界も、保守的になっていって、言葉一つでも揚げ足を取られるような状況で、自分の中ですごい怒りみたいなものがどんどんと蓄積されていって、何かを壊してしまいたいという衝動が膨れ上がっている時期でした。この映画の前にも、何本か主演作のお話を頂きましたが、あれもこれも何かが違うみたいな感じでした。『ペナルティループ』の台本を届いた時に、「こんなめちゃくちゃなことをしませんか」と言われているような気がしたんです。それで、同志がいてくれたというか、これだなと思って即決でした。「この飽和した映画界から一緒に離れていきませんか」みたいな気持ちにさせてくれて、手を差し伸べられたような感じがしました。

-では実際に演じてみて、監督の演出も含めていかがでしたか。

 面白かったです。今までやったことがないような感じでした。せりふも極限まで減らしていくような作業だったので、表現という、ある種不確かなものを排除されて、じゃあ一体俳優に何ができるのかということを突き付けられた気がしました。感情を優先させて、ここまで振り切ってしまうみたいなことをやったら、ネタバレになる可能性も十分にはらんでいたので、監督と一緒に、客観的な視点を大事にしながら、話し合いながら進めていったことは、今まで自分がやってきた映画とは全く毛色の違う作り方でした。

-監督、タイムループは映像ならではの表現なので、とても映画向きだとは思いますが、同じことの繰り返しを描くというのはどんな感じなのでしょうか。

 これは何回目?って絶対に混乱するなと思っていたのですが、若葉さんご本人に管理していただいたからというのもありますが、事前に結構練ったので、そこまで混乱は起きず、こことここはどう違うかというのが、皆の中で十分に共有されていたので、こんがらがったりはしなかったです。

-若葉さんは以前、「自分が観客として面白いと思う映画や、自分が観客なら見に行くみたいな映画が好き。そういうものを目指す」みたいなことを言っていましたけど、今回もそのカテゴリーに入りますか。

 もちろんです。僕はそういうものしかやらないので。自分が面白くないと思ったり、これはできないと思うような映画は、そもそも宣伝ができません。それは正直なところです。だって観客に対して失礼じゃないですか、自分が面白いと思っていないんですよ。僕が観客の立場だったら、裏切られたような気持ちになると思うので、それはしたくないという思いはあります。この映画は、どこにカテゴライズしたらいいのか分からないところが非常に魅力的ですし、せりふを極限までそいだ時に、言葉の壁を超えられる可能性を秘めていると思ったのでとても魅力的でした。

-監督、この映画はストーリーや説明を極力省略し、せりふも少ないです。そうする意図はどこにあったのでしょうか。

 最初は、せりふはもっと少なくて、せりふなしでできないものかと思いました。でも、やっぱりループやSFを扱うと、少しはせりふが欲しくなるんです。それでも、今映画館やテレビでかかっているものを10としたら、0.2ぐらいだと思います。せりふを削れるだけ削ってみようという話を若葉さんにしたら、手足をもがれたみたいで超うれしいみたいなことを言ったので、これはいいぞと。せりふをどれだけ削れるかと無理ゲーに若葉さんは乗るのかと知ってから、ちょっと前に進みやすくなりました。

-上映時間も非常にコンパクトになっていますね。

 目標は90分だったんですけど、やっぱり撮っていると愛情が生まれてしまい、99分になってしまいましたが、何とか2桁で収めました。2桁で収めると、乗り物みたいな感じがして、びゅんと乗れるなというのがあって、気に入っています。

-監督がこの作品に込めた意図や思いはどこにあるのでしょうか。

 意図ということでいうと、生への回帰、です。実は。何だか窮屈な時代だと思います。社会なのか時代なのか精神的になのか分かりませんが、とにかくとても窮屈で、スマホの中やネットの海に、吸い込まれてつぶされてしまいそうです。薄っぺらくて、うそくさくいなあ、何だかと、日々思います。そんな今、外に出て風を浴びてみるのはどうかと。生きていることを実感しませんかと。転んだらけがをするし、血を流すし、痛いけど、そういう全て、生きていることに戻りませんか、というのが意図です。言ってしまえば。

-若葉さんは「この映画をカルト映画と認定する」と言っていますね。

 まあ、あえてカテゴライズするならですよ。「何を見たんだ、何を見せられたんだ」みたいな読後感が、例えば『鉄男』(89)とか『ピンク・フラミンゴ』(72)を見た後の気持ちと同じになったということで、「俺がカルト映画を見た時と同じだな」と思ったので。

-最後に映画の見どころも含めて、観客に向けて一言お願いします。

若葉 この映画は嫌いな人は大嫌いだと思います(笑)。僕は今までの日本映画が大好きな人たちには受け入れられないだろうなと思っています。ただ、それに対するアンチテーゼでもあったので、すごく興味があるのが、飽和状態の日本映画界にこういうものが投下された時に、群衆の中でどれぐらいの反応があるのかというのはすごく興味があるので、その声を早く聞きたいです。

荒木 99分の新しい乗り物を作りました。客席のアームレストにしっかりつかまって、お気を確かに、振り落とされないようにご覧ください。気に入ったら、何度も見てください。繰り返し、見れば見るほど楽しめる作品にできたと思っています。

(取材・文・写真/田中雄二)