ミュージカル『サ・ビ・タ ~雨が運んだ愛~』 ミュージカル『サ・ビ・タ ~雨が運んだ愛~』

韓国発、日本でも4度目の公演となるミュージカル『サ・ビ・タ ~雨が運んだ愛~』が東京・青山円形劇場で上演中だ。出演者は3人のみ。今回は全日程出演する駒田一を軸に、戸松遥、佐々木喜英が出演する<TEAM H>、八坂沙織、矢崎広が出演する<TEAM Y>と、初のWキャスト制で上演されている。ともに初参加となる八坂・矢崎の<TEAM Y>を観劇したレポートをお届けする。

サ・ビ・タ ~雨が運んだ愛~チケット情報

作品は1995年に韓国にて誕生、韓国オリジナルミュージカルとしては最長ロングランを誇る人気作。ある雨の晩、兄ドンウクがひとり暮らす家に、7年ぶりに弟ドンヒョンが帰ってきた。大学を放り出し音信不通になった弟と久々に接し、どうしていいかわからない兄。気まずい空気が流れる中、奇抜な服装の女の子ユ・ミリ(八坂)が乱入してきた。結婚カップルを歌と踊りで盛り上げるのが仕事の彼女が部屋を間違えたのだ…。

まずは若手ふたりが全力で作品にぶつかっているのが爽やかだ。矢崎はワイルドさの中にも、弟らしい人懐っこさも見せ、魅力的なドンヒョンを作り上げた。セリフ回しも上手く、客席を巻き込むアドリブも堂に入っており、さらにピアノ演奏も危なげない。多才ぶりを見せつけた。ユ・ミリ役の八坂は、おそらく本人の持ち味であろう懸命さが役にマッチした。ユ・ミリの思いこみの激しさを、少しオタクっぽい少女として作り上げているところも新鮮で、うまく可笑し味を生み出している。何より舞台を心から楽しんでいることが伝わるフレッシュさ、絶やさない笑顔に好感が持てる。

そしてドンウクを演じるのは『レ・ミゼラブル』のテナルディエなどをあたり役としているベテランミュージカル俳優、駒田一。この夏には大作『ミス・サイゴン』で名優・市村正親とともにエンジニア役を務めることが発表されている。日本初演からドンウクを演じている彼がやはりこの作品を引張った。コミカルなシーンはお手のもの、客席を大いにノセる芸達者ぶり。だがその道化た姿に一抹の切なさをにじませる。ピエロの目元に涙が描かれるように、幸せと悲しみは表裏一体。駒田ドンウクの姿に、この作品の楽しさも切なさも凝縮される。

物語は前半のコミカルな展開から一転、後半は家族愛を考えさせられる切ない展開に。「兄貴は自分の人生を無駄遣いしている、俺たちにすがって生きるな」となじる弟に対し、「家族のことを思って生きることの何が悪い」と言う兄。お互いを思うがゆえに衝突する彼らの姿は切なく、胸に痛い。だが、なじりあっても分かり合えるのが家族。雨は必ずいつか上がり、空に虹がかかるように、確執も必ず解ける。家族愛は万国共通、そのテーマをシンプルに描いたからこそメッセージが心の奥にまっすぐ届く。この作品が長く愛されている理由はそのシンプルさにあるのだろう。

公演は4月6日(日)まで同所にて。その後4月11日(金)・12日(土)に東京・かめありリリオホール、4月15日(火)・16日(水)に大阪・サンケイホールブリーゼでも上演される。チケットはいずれも発売中。