坂上香監督

2004年に公開され反響を呼んだドキュメンタリー『Lifersライファーズ 終身刑を超えて』。更生プログラム“AMITY(アミティ)”に参加するライファーズ(終身刑受刑者)の活動を追った本作が記憶に焼き付いている方はけっこういるに違いない。それから10年、坂上香監督が遂に新作『トークバック 沈黙を破る女たち』を完成させた。

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今回、坂上監督が取材したのはサンフランシスコの刑務所で生まれた女性だけのアマチュア劇団<メデア・プロジェクト:囚われた女たちの劇場>。このプロジェクトに興味を持った理由をこう語る。「『ライファーズ』の取材で、罪を犯した人々の更生プログラムにおける表現活動の可能性を強く感じました。調べてみると、世界各地の刑務所や少年院などの矯正施設でさまざまな表現活動が行われている。そこで実際にいくつか訪ねてみたのですが、メデアはそのひとつでした」。

メデアの存在は稀有。創始者、ローデッサ・ジョーンズの指導で開かれるワークショップは、参加者である女性受刑者が例えば薬物依存、DV被害、虐待経験、売春といったひた隠しにしてきたそれぞれの悲惨な過去を他者に打ち明けることから始まる。そこからひとつの芝居が生み出され、参加者は稽古を積み、最後には劇場で観客を前にして自身という役を自ら演じ切る。その過程は彼女たちにとって封印した過去と向き合うこと。当然、苦痛を伴う。でも、それ以上に自身の大切な何かを彼女たちは見出していく。本作では、その女性たちの大きな変化が、元受刑者にHIV/AIDS陽性者が加わり作り上げた舞台「愛の道化師と踊る」が出来る過程を通して、克明に記録されている。振り返って坂上監督はこう感じたという。「メデアは矯正ともセラピーとも芸術とも社会運動とも違う。でも、これらの要素すべてを兼ね備える。素晴らしい表現活動だと思いました」。

題名の“トークバック”は、一般的には“口答えする”などを意味するネガティブな言葉だが、本作ではポジティブな意味を込めているという。「この作品では沈黙を強いられてきた女性たちが“声をあげる”こと、周囲の人々と“呼応しあう”という意味で使っています。ここに登場するワケあり女性たちの心の叫びともいうべき“トークバック”をみてほしい」。

また、“自身の受容と赦し”“社会復帰”“偏見と差別”など、本作に含まれるテーマは、自殺率が高く右傾化が叫ばれる今の日本人が大いに考えるべきことも多い。足かけ8年かけて作り上げた坂上監督の渾身作に注目を。

『トークバック 沈黙を破る女たち』
公開中

取材・文・写真:水上賢治