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『レ・ミゼラブル』や『X-MEN』シリーズでおなじみのヒュー・ジャックマンが、いつもの“愛されキャラ”とはまったく異質の役に挑んだ『プリズナーズ』は、少女失踪事件の意外な成り行きを描くサスペンス・ミステリー。『灼熱の魂』でアカデミー外国語映画賞にノミネートされたカナダ人監督、ドゥニ・ヴィルヌーヴがハリウッド・デビューを飾った衝撃作だ。

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物語は寒々しい感謝祭の日の午後、幼い少女とその友達が住宅街で忽然と姿を消すところから始まる。すぐさま逮捕された誘拐容疑者は証拠不十分で釈放され、焦燥と怒りに駆られた少女の父親は、自力で事件を解決しようとモラルの一線を踏み越えていく。許されざる暴力に頼ってでも愛娘を取り戻そうとする主人公に扮したジャックマンの熱演は狂気をみなぎらせ、“悲運の父親”へのシンパシーにとどまらない複雑な感情を呼び起こす。ジェイク・ギレンホール演じるもうひとりの主人公の刑事も孤独の影をまとい、クリント・イーストウッドの『ミスティック・リバー』を連想させる重厚にして痛切な人間模様が展開していく。

また、冒頭からただならぬノワールなムードが匂い立つヴィジュアルを創出したのは、コーエン兄弟作品の撮影監督として知られ、アカデミー賞候補の常連たるロジャー・ディーキンス。新進脚本家アーロン・グジコウスキのオリジナル・シナリオに基づくその映像世界は、ありきたりな日常の中に潜む闇をじわじわとあぶり出しながら、観る者を奇怪なる失踪ミステリーの迷宮へと誘っていく。はたして真実への扉はどこにあるのか。2時間33分という長さも含め、通常のハリウッド・エンタテインメントとは一線を画す異形のスリルにゾクゾク身震いして欲しい。

『プリズナーズ』
5月3日(土) 新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー

『ぴあ Movie Special 2013 Autumn』(発売中)より
文:高橋諭治