ミュージカル『イン・ザ・ハイツ』 ミュージカル『イン・ザ・ハイツ』

シンガーでもある松下優也、Micro(Def Tech)ら音楽性の高い日本人キャストを擁した、トニー賞受賞のブロードウェイ・ミュージカル『イン・ザ・ハイツ』が4月4日、東京・シアターコクーンで開幕。初日公演に先駆けて行われたゲネプロの様子を取材した。

ミュージカル『イン・ザ・ハイツ』

マンハッタン北西部に実在する町ワシントンハイツで繰り広げられる群像劇で、オリジナルは2008年にブロードウェイで初演された。登場人物の多くは移民としての苦悩を抱えたドミニカ、キューバ、プエルトリコ系の人々で、劇中で使用される音楽はサルサ、メレンゲといったラテン系やヒップホップ。かつラップ(歌詞はKREVAが担当)が多用された、日本人が表現するにはいくつものハードルが設けられた作品ながら、オリジナルの熱やノリをいささかも失うことなく、作品の世界観とテーマを伝えることに成功している。管楽器の音色が艶やかな幕開きのナンバー『イン・ザ・ハイツ』から、パッションが舞台狭しと客席にあふれ出し、座っていながらつい体がリズムを刻んでしまう。演出・振付は安室奈美恵やSMAPらの振付家としても著名なTETSUHARUで、ホットなダンスミュージカルとしても十分な見ごたえがある。

困難を乗り越えたカンパニーは皆素晴らしいパフォーマンスを見せているが、立役者はやはり最難関のハードルといっていい“ラップ”の柱を担ったウスナビ役のMicroだろう。本職の歌はもちろん、本人の人柄がにじみ出たような誠実で素朴な味が魅力だ。ウスナビの幼なじみのアフリカ系移民ベニーを演じる松下優也も、R&Bシンガーとしての音楽的感性と俳優としての表現力で、本来難しいはずの“ミュージカルにおける(役を通じての)ラップ“を軽やかに伝えてくれる。そのベニーと雇い主の娘ニーナの障壁あるロマンスの行方も、物語の柱のひとつ。ニーナを演じる梅田彩佳(AKB48)はミュージカル初挑戦ながら歌声に安定感あり。父母の前でのキュートな娘らしさ、ベニーに対してのちょっと艶っぽい表情など、様々な姿を自在に見せた。ほかにもウスナビが一途に愛するセクシーなヴァネッサ役の大塚千弘や、前田美波里、マルシアらのベテラン勢も揺るぎなく作品を支えている。

物語の終盤、登場人物のひとりにある奇跡が起こる。それにまつわる出来事を機に、町の人々は次なる世界へと一歩足を踏み出す決断をする。それが正しいかどうかは、時間が経ってみないとわからない。だが自ら決めたことに誇りを持って生きていくであろう彼らの背中に、一歩を踏み出す勇気をもらった気がした。旅立ちと決断の春にこそ、ふさわしいミュージカルであるだろう。

公演は4月4日(金)から20日(日)まで東京・シアターコクーンにて。その後、大阪、福岡、愛知、神奈川でも公演。チケット発売中。

取材・文:武田吏都