ウェアラブルの時代はもう目の前に来ている

2014.4.7 20:14配信
ウェアラブルの米倉豪志CTO

身につけて使うデジタル製品「ウェアラブルデバイス」が注目を集めている。きっかけは、グーグルが2013年2月に発表したグーグルグラス。メガネ型の端末の片方に情報を表示し、音声や視線でコントロールするという、誰もがぼんやりと考えていた近未来端末をかたちにしてしまった。この後、身につけたりスポーツ用具に取りつけたりなどして、新たな世界と市場を生むデバイスが続々と登場している。

●グーグルグラスは「最低の出来」、そこがすごい

3月1日、小さな会社が産声を上げた。その名も「ウェアラブル」。ウェアラブルデバイス向けのアプリケーションを開発する会社だ。最初のターゲットは、グーグルグラスだ。「時計型の製品や、人の行動を記録する活動量計などもあるが、グーグルグラスが一番おもしろそうだと思った」と語るのは、米倉豪志CTO(最高技術責任者)。グーグルグラスの何に可能性を感じるかたずねると、「ぜんぜんダメなところ」という答えが返ってきた。

最先端のウェアラブルデバイスの一つとしてもてはやされているグーグルグラスだが、実際は「まったくのプロトタイプ。最低の状態」だという。メモリ容量は小さく、CPUも貧弱。立ち上がりには時間がかり、すぐに熱暴走する。しかし、「こんな状態であっても、かたちにして世に問うという姿勢がすごい」と感じたという。限られた技術者向けの販売であったとはいえ、日本企業では考えられないスタイルだ。

製品としての完成度はさておき、まずコンセプトを現実にかたちにして、技術者の心をつかんで新たな市場を切り拓いていく。これがグーグルグラスの現在の姿だ。世界中の技術者が寄ってたかって、いったいこれで何ができるかを研究開発しながら試している段階だ。米倉CTOは、パソコンの黎明期に似ているとして、「まさに、ポテンシャルだけあって何もできないという状態。ポテンシャルに夢をみて、その大きさが市場をつくっていく」と話す。

早ければ年内にも一般向け販売が始まる予定のグーグルグラス。ウェアラブルの第一号アプリは、「出会い系アプリ」になりそうだ。顔認識機能を使って、あらかじめ登録した恋人募集中の人物の上にハートマークが現れ、プロフィールを歩きながら確認できるというイメージ。すでに試作版は動作しており、まずアメリカでリリースする予定だという。AR(仮想現実)とGPSを組み合わせて、不動産空き情報などをその場で確認できるアプリも開発中だ。また、カラオケのアプリも試作版ができあがっている。

米倉CTOは「実際にグーグルグラスをかけて街を歩くと、スマートフォンが古く見える」という。今や誰もが下を向いて画面を見ながらタッチパネルを操作する光景はあちこちで見かけるようになった。しかし、まっすぐ前を向いた状態で、音声と視線の移動だけで、ほぼ同じような操作ができるインターフェースに触れると「10年以内にはあたりまえになっているだろう。ひょっとすると2020年の東京オリンピックでは、人々がグーグルグラスをかけて競技を観戦する世界が訪れているかもしれない」と語った。

●ソニーもついにウェアラブル分野に本腰

ウェアラブル機器の市場規模はさまざまなところが予測しているが、向こう3~4年で世界で3億~8億台とまちまちで、その実、まだよくわからないというのが現状だ。ソニーモバイルコミュニケーションズでXperiaの開発を手がけるUXデザイン&企画部門 UX商品企画部の黒住吉郎バイスプレジデント・クリエイティブディレクターも、「正直なところ、どこまで進化して、どこまで広がるかはまだよくわからない」と語る。

そのなかで、現在最も実用化が進んでいるのが、活動量計と呼ばれる分野の製品だろう。ソニーには、これまでウェアラブルデバイスとしてスマートウォッチがあったが、これも含めて「ウェアラブル製品群」として本格的に取り組みを開始した。その第一弾が、この3月に発売した「SmartBand SWR10」だ。ソニーのスマートフォンと連携して、日々の行動を記録していくいわゆる「ライフログ」を取るためのリストバンド型デバイスで、歩数や移動の軌跡、聴いた音楽、撮った写真、通話記録などを蓄積していくことで、行動パターンの発見や、コミュニケーションや行動のきっかけになる情報を提供する。

それでいったい何になるのか? その問いに、黒住バイスプレジデントは「メールやFacebookは外の世界をチェックする道具。『SmartBand』は、自分自身を知りチェックする道具だ」と説明してくれた。実際にはそれほど頻繁にメールチェックする必要がなくても、ついスマートフォンで頻繁にメールをチェックしてしまう。それと同じように、「自分自身を常にチェックする道具で、これまでありそうでなかった自分自身を理解するためのツール」というわけだ。

現在、活動量計と呼ばれる製品は数多く存在する。「SmartBand」の特徴は、人間の活動に加え、デジタルライフも積極的に記録していくところにある。「最近は、中学生ですら1日6時間もスマートフォンをいじっているという調査結果もある。起きている時間の実に半分だ。デジタルライフは、よきにつけ悪しきにつけ、ライフスタイルの大きな部分を占めるようになってきた」。歩数や睡眠時間などの記録に加え、そうしたデジタルライフの記録を取っていくことで、「デジタルライフも含めて、いい体験だったら振り返りたいし、ムダであっても思い返したい。そういったものを見えるようにするのも、ウェアラブル機器の一つの役目だ」(黒住バイスプレジデント)。

「SmartBand」の特徴は、コアと呼ばれる本体部分が、シリコン製のリストバンドから分離する仕組みになっている点。腕に巻くだけでなく、いろんなものと組み合わせて、からだのあちこちに装着していくような利用法を想定している。今後は、このコアに撮影機能を搭載する可能性が高いという。「人間は情報の8割を視覚から得ているともいわれている。それをウェアラブルデバイスに採り入れて、究極の記録ツールに進化させる」計画だ。

●健康管理に特化したUP

活動量計の老舗といえば、ジョウボーンの「UP」。シリコン製の柔らかい素材でできたリストバンド型のウェアラブルデバイスだ。およそ2年半前に最初の製品をリリースし、この3月に後継モデル「UP24」を発売した。コンセプトは、健康管理に絞り込んでいる。睡眠・運動・食事のパターンを収集し、生活改善に役立てる。新製品では、Bluetoothでリアルタイムにスマートフォンと連携することができるようになった。

ジョウボーンの国際パートナー・製品開発部門で責任者を務めるヨーゲン・ノルディン氏は、シリーズを「ユーザー自らが目標を立て、その目標を達成する手助けをするデバイス」と位置づける。「どうすればユーザーが目標を達成できるかを、データ解析の結果をもとに行動の変革を促すデータとして提供する」。ジョウボーンでは6名のデータサイエンティストがユーザーのデータを解析している。「解析にもとづいて、行動に直結するアドバイスをユーザーに提供できる唯一の企業」とノルディン氏は語る。それが、他社製品との差異になっている。

リストバンド型を採用しているのは、「人の状態を取得するデバイスとしては、手首につけるのが最適だと判断した」からだという。しかし、ディスプレイのような表示関連はすべてスマートフォンに任せ、「UP」はほぼ情報収集に特化したデバイスにした。大きさの問題、バッテリ寿命の問題、仮にディスプレイをつけたとしても、十分な大きさにはできないなどの問題点があり、現在のかたちに落ち着いた。しかしノルディン氏は、「まだまだ最初の段階。ネックレス型やイヤリング型、服自体に組み込まれるものなど、将来はさまざまなバリエーションのデバイスが登場するだろう」と語る。

活動量計型のウェアラブルデバイスに共通しているのは、どれも自分のさまざまな活動を「見えるようにする」ということだ。例えば体重の管理なら、特別のツールがなくても体重を「見る」ことは比較的簡単だが、睡眠時間や睡眠の深さはみえにくく、管理は難しい。歩いた距離や歩数なども、毎日の記録はなかなかできるものではない。記録を通じて自分を知り、そこから健康や話題づくりなどの目標に導くのが、活動量計型のデバイスの特徴だ。

●もう感覚に頼らなくていい、スポーツを変えるデバイス

ウェアラブルデバイスを「身につけるもの」と考えれば、やや異なる製品だが、人間の活動を記録するという点でウェアラブルの分野に含めて考えられているのが、スポーツ系の記録デバイスだ。この4月にエプソンが発売するゴルフスイング解析システム「M-Tracer For Golf」は、その代表だ。

ゴルフのスイングの軌跡や、グリップやヘッドのスピード、スイング中のシャフトの回転までを克明に記録する。エプソン販売の取締役、中野修義販売推進本部長は、「今まで感覚でしか教えられなかったようなことを、数値で示すことができるようになる」と話す。製品発表会でゲストとして登場したゴルフティーチングプロの堀尾研仁氏に、「これでぼくらの仕事はなくなるかもしれない」と言わしめたほど、インパクトがある製品だ。

プリンタやプロジェクターのイメージが強いエプソンだが、一方でさまざまなセンサを開発・製造しており、それらは同社の屋台骨を支える基本的な技術になっている。その高精度センサを製品に落とし込んだのが、「M-Tracer」だ。高速のゴルフスイングを高精度で記録できるよう、1秒間に8回転させても追随できる精度の高いセンサを採用し、これまでわからなかったスイングの中身を「数値で見える」ようにした。

例えば、ゴルフのスイングで一般のプレーヤーが陥りやすいい「手打ち」についても、数値でその実体がわかるようになる。スイングの途中でグリップスピードを落とすことで、ヘッドスピードが上がるということが、研究の結果わかっている。しかし、これまでは「力を抜いて振る」というあいまいな表現でしか伝えられなかった。その状態が、数値で確認できるようになるわけだ。

製品名に「For Golf」とあるように、こうしたセンシングデバイスは、他の競技にも十分応用できる。中野本部長は「次の競技向けの製品も試作に入った段階。来年には発表できるのでは」という。テニスでも野球でも水泳でもランニングでも、あらゆるスポーツに応用できそうだ。感覚的な言葉でしか伝えられなかったことを数値で表すことで、上達のスピードが格段に上がることも期待できる。

●生活を大きく変えるウェアラブルデバイス、課題はバッテリ

いくつものバリエーションが登場してきたウェアラブルデバイス。私たちの生活にどんな変化をもたらすかが、徐々にみえてきた。これからの可能性と課題という点で、関係者が口を揃えて語るのは、まず課題としては「バッテリ」。身につける以上、これまでの製品以上に小型・軽量であることが求められるのだが、その要となるバッテリの進歩がなかなか追いつかない状態だ。そして、可能性として誰もが挙げるのは、ウェアラブルを軸にした新しいライフスタイルの誕生が目前に迫っているということだ。現時点は想像もつかないような生活の大転換が、これから数年で起きようとしている。(道越一郎)

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