『アクト・オブ・キリング』を手がけたジョシュア・オッペンハイマー監督

世界の映画祭で高い評価を集めてきたドキュメンタリー映画『アクト・オブ・キリング』が12日(土)から日本でも公開になる。かつてインドネシアで起こった大虐殺の真実に迫った作品だが、ジョシュア・オッペンハイマー監督は「過去を描くためにこの映画を撮ったわけではない」と断言する。

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1960年代。インドネシアでは軍が政府を転覆し、1年足らずの間に共産主義者や華僑の人々、知識人が100万人以上も虐殺された。映画に登場するアンワル・コンゴと仲間たちは当時、暗殺部隊として何百人もの人々を殺害したが、現在もインドネシアで暮らし、それどころか国民的英雄として扱われている。監督は当初、虐殺の加害者と生き延びた人間が同じ国で暮らす現状を記録するためにインドネシアに入ったが「すぐに軍の介入によって撮影を止められてしまった」という。「でも生存者から取材を続けてくれと頼まれて、取材を続行したら、アンワルたちはかつて自分が行った虐殺行為をカメラの前で自慢げに話しはじめたんです。興味深かったのは、僕には彼らの話が証言というより、”パフォーマンス”に見えたことでした」。そこで監督はアンワルたちに「カメラの前でかつての虐殺行為を再現してみませんか?」と提案する。

映画ではアンワルたちの回想と虐殺の再現が繰り返し描かれる。それは観客の想像を絶する悪夢のようなシーンの連続だが、監督は「過去を描くためにこの映画を撮ったわけではない」と断言する。「それは決してやってはいけないことだと私は思います。私が興味深かったのは、なぜアンワルが40年前の過去を語る必要があるのか? ということでした」。

アンワルは次第に映画に対して興味を深め、同時に変化を遂げていく。それはオッペンハイマー監督が撮影初期から想定していた“変化”だったという。「初めて私たちがアンワルに会い、虐殺現場に連れていってもらった時に彼が突然、踊り出したんです。その時に私は『彼は自分のやったことの恐ろしさに耐えきれなくなって踊ったのではないか?』と感じました。そこで私たちは撮影した映像を彼に見せて、彼からコメントをもらって、再び撮影する、という行為を繰り返しました。映画のシーンがどんどん大規模で派手になっていったのは、彼が罪から逃れよう、否定しようと必死になっていった結果だと思います」

観客は“知られざる歴史”に直面すると同時に、かつて起こった暴力的な感情を40年経っても制御できない人間の姿を目撃するだろう。単なる“過去の罪の告発”ではなく、社会、暴力、政治、トラウマなどの問題を複合的に描いた本作は、“衝撃”以上の感情を観る者に抱かせるはずだ。

『アクト・オブ・キリング』
4月12日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開