2014年3月は、17年ぶりの消費税増税を控え、パソコンやデジタル一眼カメラなど、さまざまなジャンルで駆込み購入がみられた。スマートフォンもその一つだが、増税や季節的な要因以上に、事前にインターネット上で広まった「キャッシュバック終了」の噂の影響を受けたようだ。家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」によると、3月のスマートフォンの販売台数は、前年同月比128.7%、前月比221.6%と大きく伸びたが、アップルの「iPhone 5s」に人気が集中した。iPhoneは前年の2倍以上で、一方のAndroid端末は前年割れと明暗が分かれた。決してメーカーやOSを問わず好調だったわけではない。

●「iPhone 5s」のシェアは49.6% 一時は携帯電話全体の6割を超える

キャリアごとに容量を合算すると、3月の携帯電話の販売台数1位はソフトバンクモバイルの「iPhone 5s」、2位はKDDI(au)の「iPhone 5s」、3位はドコモの「iPhone 5s」だった。ソフトバンクモバイルの「iPhone 5s」は、13年11月以来、au版、ドコモ版を抑え、5か月連続で1位を獲得している。

キャリアを合算した「iPhone 5s」の販売台数シェアは49.6%。携帯電話全体の販売台数の8割強を占めるスマートフォンに限るとシェアはさらに上昇し、58.7%に達した。「iPhone 5s」の1か月間の販売台数は、発売以来最も多く、13年9月の販売台数を1とすると、4倍近い「3.9」まで伸びた。旧機種を含めたiPhone全体の販売台数も、これまで最大だった13年10月を上回り、過去3年間で最多。MNP(携帯電話番号ポータビリティ)の目玉として、取扱いキャリアすべてが強力にプッシュした結果、空前の販売台数を叩き出した。

週単位でみると、「iPhone 5s」は、2月下旬から販売台数が急増し、それに伴ってシェアも上昇。3月第1週(2014年3月3~9日)は携帯電話全体の55.2%、翌3月第2週(3月10~16日)は61.1%を占めた。スマートフォンに限ると、シェアはそれぞれ10ポイント程度アップし、期間中に売れたスマートフォンの6~7割が「iPhone 5s」という状況だった。しかし、土・日曜の3月15・16日を含む3月第2週をピークに販売台数は減少に転じ、3月第4週(3月24~30日)にはシェアは5割を切り、4月をまたいだ3月最終週(3月31日~4月6日)は41.3%と、以前の水準に戻った。「iPhone 5s」の販売台数減少とほぼ比例するかたちで、スマートフォン全体の販売台数も減少している。

●時期によって大きく変わったキャリア別シェア キャッシュバック減額が響く

スマートフォンに限ってキャリア別販売台数シェアを集計すると、3月第1週・第2週は、au、ソフトバンクモバイル、ドコモの順で、auがシェア約36%を占め、一歩リードしていた。ここから一転、3月第3週・第4週は、ドコモがシェア38.0%、39.8%でトップに立ち、最終的に月間ではau34.1%、ドコモ33.8%、ソフトバンクモバイル33.0%と、前月とほぼ同じ結果となった。

ここ数年、店舗独自のキャンペーンとして、MNPを利用して特定のスマートフォンを購入し、指定の条件をすべて満たすと、「MNP一括○円」として本体価格が割引きされるか、商品券や現金、現金代わりに使える販売店独自のポイントがもらえる「キャッシュバック」が常態化していた。2月に入って、ドコモが「iPhone 5s」のキャッシュバック金額を増額すると、他の2キャリアも追従し、競争に拍車がかかった。しかし、「複数台同時購入で1台あたり最大8万円キャッシュバック」といった高額キャッシュバックに対して「総務省の規制が入り、近く終了する」という噂が流れた。

上・中旬と下旬でスマートフォンのキャリア別販売台数シェアが大きく変わった最大の理由は、競争のあまり高騰し、果てしなき消耗戦の状態になりつつあった「MNP向けキャッシュバック」の縮小にあるだろう。3月半ばから、auとソフトバンクモバイルの「iPhone 5s」のキャッシュバック金額は段階的に減額されたが、ドコモの「iPhone 5s」は3月末まで変わらなかったために、そちらにMNPユーザーが流れ、相対的にドコモのシェアが上がったとみられる。

キャッシュバック終了のきっかけをつくったと報じられたソフトバンクモバイルの広報に問い合わせると、「端末の販売価格は、販売代理店である店舗が決めるので、この件に関してキャリアとしてはコメントはできないが、費用面で優遇の大きいMNPと機種変更の不公平感に関しては問題意識をもっており、今後取り組んでいきたい」という回答だった。

4月最初の週末、訪れた店舗の店員に聞いたところ、事前の噂通り、4月1日以降、全国でこれまでのようなMNP向けの高額キャッシュバックはなくなったそうだ。一部の機種ではキャッシュバックを実施しているが、金額は5000円や1万円など、以前に比べるとだいぶ少額。それでも、基本使用料が3年間無料になる「学割」や「下取り」など、キャリア共通のキャンペーン・割引は、4月1日以降も継続している。

●iPhone率は3キャリアとも4割以上 Androidではコンパクトモデルが人気

ドコモ、au、ソフトバンクモバイルの主要3キャリアについて、それぞれトップ10を集計すると、3キャリアとも前月とほぼ同じ顔ぶれだったが、auは「isai LGL22」が4位に、2月発売の春モデル「AQUOS PHONE SERIE mini SHL24」が6位に、ソフトバンクモバイルは3月発売の「AQUOS PHONE Xx mini 303SH」が3位に浮上した。Android搭載スマートフォンでは、5インチ以上の大画面モデルだけではなく、ドコモの「Xperia Z1 f SO-02F」を含め、ややコンパクトなモデルが人気を集めている。

今年3月のスマートフォンの販売台数は、これまで最大だった2年前の2012年3月を上回り、過去3年間で最多だった。従来型携帯電話を含めても、過去3年間で最も多い。ただ、短期間での買い替えや転売・寝かし目的の買い増しを促してきたと思われる「MNP向けキャッシュバック」がなくなると、販売台数の減少は免れないだろう。この3月をピークに、長期低迷に陥る可能性もある。

ソフトバンクモバイルは、4月21日から音声通話とパケット通信(データ通信)をパックにしたスマートフォン向けの新たな定額サービス「スマ放題」を提供する。ドコモも6月1日から、国内音声通話が「かけ放題」になる新料金プラン「カケホーダイ&パケあえる」を導入する。「売り方」の見直しや新たな料金プランの導入を機に、「高い」といわれるスマートフォンの通信料金や端末価格の適正化が進んで、より買いやすくなるよう、今後のさらなる改善・見直しに期待したい。(BCN・嵯峨野 芙美)

*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベース(パソコンの場合)で、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。