マリアンネ・ゼーゲブレヒト

このふくよかな容姿とほがらかな笑顔に見覚えのある映画ファンは多いのではないだろうか。『バグダッド・カフェ』(87)のヒロイン、ジャスミン役で一躍世界に知られる存在となったドイツの女優、マリアンネ・ゼーゲブレヒト。あれから27年、彼女から久々の主演作『バチカンで逢いましょう』が届いた。

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実は彼女が映画に出演するのは9年ぶりのこと。このブランクには理由があった。「テレビドラマなどには出演していたのですが、映画に関しては久々になってしまいました。この間も実はオファーはいただいていたんです。誰もが知っているハリウッド大作の人気シリーズや某有名監督の作品など。ただ、どれも私がやるべき役とどうしても思えなかったのです」。

そういった中でようやく“これは”と思えたのが今回のマルガレーテ役だったと明かす。「人生を前向きにとらえるマルガレーテの生き方に同世代の女性として共鳴しました。また、ユーモアがあって心温まるストーリーもすばらしい」。

そのストーリーは、長年連れ添った夫に先立たれたカナダで暮らすマルガレーテが、どうしてもローマ法皇に懺悔しなければならないことがあり、たったひとりでバチカンへ。料理上手で誠実な彼女の作る家庭料理と心の優しさが迷える人々に幸せを届け、ひとつの小さな奇跡を起こす。「作品中で、マルガレーテはローマ法皇との集団謁見でちょっとした事件を起こしてしまいますけど、多少脚色がされてはいますが、これは実際にあったこと。そう、この物語は実話なんです。皆さん、“なんてすてきな逸話なの!”と思うのではないでしょうか」。

劇中でマルガレーテの前に現れる詐欺師のロレンツォを演じるのはイタリアの名優、ジャンカルロ・ジャンニーニ。劇中、丁々発止のやりとりを繰り広げるふたりの姿には思わず笑みがこぼれる。「私は母国がドイツで、彼はイタリア。普段は英語でコミュニケーションをとったのですが、実は言葉が通じるかどうかはあまり関係ないんです。それよりも役者同士は波長のようなものが合うかどうか。彼とは呼吸がぴったりと合いました。それがあってああいうユーモアのあるシーンになったのです」。

「女優は仕事ではなく、運命の導きによって自らに与えられた役割」と語るマリアンネ。最後に彼女は笑顔でこう語ってくれた。「現在、ある自然学者に関するドキュメンタリー映画の制作を構想中なの。この作品を完成させてまた日本に戻ってきたいわ」。

『バチカンで逢いましょう』
4月26日(土)より新宿武蔵野館ほかにて公開

取材・文・写真:水上賢治