【音楽】シンガーソングライター土井玄臣が歌う、ポップな諦めと祈り

大阪在住のシンガーソングライター、土井玄臣が歌うポップソングに込められた想いとは? これは、罪深い業を背負いつつ生きるすべての人々に贈られる祝福の歌だ。

昨年末あたり、2ちゃんねるの某板で曲が貼られてにわかに注目を浴びた土井玄臣。人となり、バックボーン、そんなの関係なしに曲だけがちゃんと好かれて認められるってすごいな、やっぱ土井さんの曲っていいもんな、ちゃんと誰が聴いてもいいんだな。って再確認できる出来事でして、わたしも胸を張っていいたい。土井さんの音楽ってこんなにポップなんですよ~。

 

 
 

 

 

ちなみにこれらの曲は『んんん』という無料配布のアルバムに収録されています。無料です。配布です。無料で配布なのです。なんと、こんなに素敵な曲たちが入ったアルバムが、素敵なジャケットに包まれて、土井さんのお家からわたしのお家へ直接届くという寸法なのです。送料だってバカにならないでしょうに、太っ腹だぜ土井さん!

そんなわけで土井玄臣さんという方は、今から7年ほど前の2005年、くるり主催のレーベル、ノイズ・マッカートニーからリリースされたコンピレーションに参加し話題となった大阪在住のシンガーソングライター。彼の音楽は、思わず口にしたくなる耳馴染みのいいメロディに、言葉の音/リズムの流れが心地よく転がって、目の前に鮮やかな景色を紡ぎだす極上のポップソング。そこには土井さんの優しさや慈しみ、愛おしさがふわりと落ちて、ゆるやかにだけど確かに、肯定、が、存在している。というと、オザケンばりの、光と愛に満ち溢れた喜びのポップミュージックをイメージするかもしれない。だけど土井さんの音楽は、肯定、の裏に、諦観、がある。なにもかも悟った暗い目で、世の中を慈しんでいるような、深く深く愛するその瞬間に、深い深い孤独を味わっているような、光といっしょに存在する陰。その真理について、土井さんは歌っているような気がする。一聴するととてもポップでメロディアス。だけどその歌世界は、罪深い業を悟った人間の、あきらめのような、祈りのつづれおりだ。


尼崎は土井さんが生まれ育った場所。彼がみてきた悲しさの欠片はこの歌に確かににじんでいる。

 

うまく笑うことができない女の悲しい可笑しい物語。



なんと「んんん」は自殺するひとの歌だそうな。もしかすると、「ハルカ」が。


先述の、メールをすれば無料でお届けいただけるアルバム『んんん』に続いて昨年末に届けられた土井さんの新作『それでも春を待っている』。“アラベスク”という単語をキーワードに、プロローグからエピローグまで一環した世界観をもつこの作品は、そんな土井さんの「光と陰」の物語に、さらに「輪廻の証」までみせてくれるようなレイヤーが重なっている。この作品について、土井さんはこんなふうにつぶやいていたことがある。

【腐る一歩手間みたいなアレンジを模索してるけどなかなか難しい、ダサい的な意味合いじゃなくて、ほんとにふれたら崩れ落ちそうなやつ】

去年の6月に東京でライブを行った際、「遠征で1曲目でやるような曲じゃないですけど」と言い歌った「Nanzen」。不気味な打ち込みトラックのアレンジと不安定な言葉のリズム、発音、かすれそうな声で「あと何千?」と繰り返すさまは、まさに、そんな、ふれたら崩れ落ちそうな精神の狂気を想像させる。何千年経っても結ばれない想いの行方が、呪詛のようにベタッと張り付いている。この曲こそ、今作品を見つめる奥行きの、もっとも闇の底辺のような気がしてならない。そしてこの曲が表現する何千年の間に、「Eyes of Ra」は“アラベスク”を探し求め、「オスカー」はスタッカートのピアノのフレーズに乗って生命を歌い、「SF」で行き詰ったふたりの愛と生活を独白し、愛し合うふたりの希望を「アラベスク」の会話が紡いでいく。4千年前から鳴り続け、姿、形を変えて何度も私たちの前に現われる“アラベスク”という言葉遊びは、火の鳥のような不確かさで繰り返し言霊にのる。幻かもしれない。それでも、影を追うことが、光を見出す手がかりになるだろう。「それでも春を待っている」という行為。または言葉そのものこそ、“アラベスク”の正体ではないかと、わたしは思う。


そしてこの作品には、震災後に表現するということ、もとい、生きていくということ、に対する後ろめたさ…と言っていいと思う。が、「君に幸あれ」という他者への祈りで懺悔され赦されている。音楽は無力であるということ、人間は無力であるということ、十分に自覚をした上で、それでも、音楽が鳴っている日々を尊び、生を祝福しようとする行為。それは「がんばろう!」「大丈夫!」という直接的な励ましの言葉ではないけれど、もっとも誠実で、もっとも切実な日々の讃頌に思える。


土井さんの音楽は、一聴するとさらっと聴けるポップソングだと思う。けど、その実、じっくり向き合おうとすると、ちょっと苦しいし、コンディションによっては目を背けたくなるようなときもある。だけど、2011年にこの作品が届けられたということ、そして聴けたということは、幸せである、とわたしは言いたい。それでも春を待っている、ことができる私たちを祝して。

 

音楽が終わって、何も出来ずにいた

ひどい音がしたね、と、ひどい音がしたわ

それでも、春は無関心で、美しい美を実らせた

誰の気も知らずに、緑は濃く萌えはじめた

それでも春を待っていた君の前を

嬉しそうに飛び出した春の虫が手のひらをかすめていく

泣きつかれた目で言う、春を睨みながら言う

それでもと、それでもと、声を詰らせて言う

言祝く、このよき日を、今日を迎えたことを

あの娘に祝福を 君に幸あれ


土井玄臣「言祝」


「土井玄臣 レコ発ライブ」
1月21日(土)  池袋ミュージックオルグ
出演:土井玄臣(大阪)/偶然の産物/kooreruongaku/惑星のかぞえかた/peno
OPEN: 18:00 / START: 18:30
ADV: 1500円 / DOOR: 1800円 (ドリンク別)

※土井さんのライブはその場の空気を一瞬で変える。まるで歌舞伎の女形のように妖艶な姿で歌うステージもおすすめです!都内ではなかなか観れないライブなので、ぜひ!
※無料のアルバム「んんん」についてはこちらからお問い合わせくださいませ! 

 

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