松江勇武プロデューサー

いわばご当地映画とでもいえる地方発の映画が珍しくなくなった昨今。今度は逆発信とでもいおうか都内発の映画作りに挑む人がいる。武蔵野映画社を設立した松江勇武プロデューサーは、地元・吉祥寺に密着した映画作りを目指して2009年に「吉祥寺で映画を撮ろう!」プロジェクトを始動。この度、その第4弾作品『さよならケーキとふしぎなランプ』が完成した。

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実は、松江プロデューサーは吉祥寺のハーモニカ横丁にある居酒屋の店主。このプロジェクトを立ち上げたきっかけをこう明かす。「約10年前に店を開いたのですが、映画関係の方がよく来てくださるようになって、出会ったのが当時、富樫森監督などの助監督を務めていた宮田(宗吉)さん。その流れで、彼の監督デビュー作『バカバカンス』に音楽でちょっとだけ参加したんです。それで、はまったというか(笑)。自分でも作ってみたい気持ちが沸いてきてしまった。それを地元の知人やお客さんに話したらのってくれる人もいて。地域密着型のこのプロジェクトへつながっていきました。今は地元商店街や武蔵野市フィルムコミッションなどとの連携も深まり、今回の新作も吉祥寺の有志や賛同者、地元企業や団体の100%出資で製作されています」。

その新作は吉祥寺のとあるカフェを舞台に、不思議なランプでつながるこの世とあの世の人々の交流と別れを描く、いまどき珍しいファンタジー作。まるでお伽噺のようなストーリーはいまどき珍しいといっていいかもしれない。「このプロジェクトの作品は、あらゆる人が楽しめるものにしたい。肩肘張らないでくつろいで観られるというか。大人から子供までがそのときだけは夢の世界にいられるような作品を目指したい。ファンタジーにこだわりたい気持ちがあります」と松江プロデューサーは語る。

こうして生まれた作品は、5月いっぱいで閉館の決まってしまった吉祥寺バウスシアターのクロージング作品の1本に選ばれた。「吉祥寺の映画文化を築いてきたバウスシアターのクロージング作品に選ばれたのはとても光栄なこと。でも、心境は複雑です。というか残念でならない。これからもっと深く連携して、おもしろいことができたらと思っていた矢先なので」。

今後は世界を視野に入れていきたいそうだ。「吉祥寺から日本全国、そして世界へと広がる作品を発表していきたい。その第一歩ではないですけど、うれしいことに、本作のミャンマーでの配給が決定しました」。

『さよならケーキとふしぎなランプ』
4月26日(土)より吉祥寺バウスシアターにて公開

取材・文・写真:水上賢治