生前のポッポちゃんと幼い頃の久美子さん

長女の久美子さん。フクロウのポッポちゃんははく製となって、郵便局を見守っている。

石橋さん一家が初めてフクロウと出逢ったのは1995年12月、家族でドライブをしていたときのこと。「大阪と和歌山をつなぐ風吹峠トンネルの手前で、羽をバタバタさせていたフクロウを見つけたんです。おそらく数台前の車にぶつかったんでしょうね。けがをしていたので毛布にくるんで、自宅に連れてかえって傷の手当てをしたんです」(彰彦さん)。

このフクロウに娘の久美子さんが“ポッポちゃん”と名付け、家族総出で看病をしました。しかし内臓を痛めていたポッポちゃんは介抱の甲斐なく、3か月後に死んでしまったのです。

「なきがらを埋葬しようとしたのですが、この子(久美子さん)が『埋めるのはかわいそうや』と言うて泣くんですよ。そやから仕方なく、職人さんをほうぼう探して、はく製にしたんです」(由紀子さん)。

それからというもの、石橋さん一家にはラッキーな出来事がたびたび起きるようになったとのこと。

「長男の就職がうまくいったり、10万円相当の旅行券が当選したり、家の中の揉め事がなくなったり、不思議とええことが続くんですよ」(由紀子さん)、「なにより『郵便局をやらないか』というお話をいただけたこと自体が、幸運な巡り合わせですしね」(彰彦さん)。

「これは、ポッポちゃんのおかげに違いない」。石橋さんはそう思い、開局の際に、幸福のシンボルとしてカウンターにフクロウの人形3羽を置き、のちにポッポちゃんのはく製を自宅から局内へと移しました。するとそれを見たお客さんが「うちのフクロウも仲間に入れてあげて」「フクロウの人形を作ったから置いてちょうだい」とグッズを持ち込むようになり、開局7年目にしてその数は、およそ1300羽にまで膨れあがったのだそう。

「お客さんのほうにも、いいことが起きるらしいんですよ。『ファンクラブに入っていても当たらないようなプレミアムなコンサートチケットが、ここのポストから応募したら当たった』とか、『ここでお金をおろして宝くじを買ったら当選した』とか」(久美子さん)、「うちから入学願書を送ったら、誰からも無理だと言われ反対されていた大学に合格したと言って、親子でお礼をしに来られたことも。みんなで万歳三唱しましたよ」(由紀子さん)と、フクロウ効果(?)の報告は枚挙にいとまがありません。

そうして次第に“和歌山の新たな開運スポット”として知られるようになっていったのです。以来、噂を聞きつけ、遠くは千葉県、神奈川県、さらには九州からやってきた人もいたとのこと。

カウンターに設置された威風堂々とした焼き物のフクロウは、腰を痛めた80歳近い陶芸家の男性が、最後の作品としてこしらえたもの。そして自分が焼いたフクロウの像をお客さんが撫でてくれているのを見て、「やっぱりまだまだ作陶を続けたい」と、諦めかけていた手術を受ける決意をしたといいます。

フクロウもさることながら、石橋さん一家がかもしだす雰囲気があたたかくて、とっても居心地がいい。悩み事があっても「ほーほー」と聞いてくれる気がします。

名称●下井阪簡易郵便局
住所●和歌山県紀の川市下井阪492-10
TEL●0736-77-0303
営業時間●月~金 9:00~16:00
休日●土・日・祝
 

京都在住の放送作家。『LIFE ~夢のカタチ~』(ABC)『ピーチCafe』(YTV)『大阪芸大スカイキャンパス』(OBC)など関西ローカルのテレビ・ラジオ番組を多数構成。街歩きをライフワークとし、『VOWやねん!』(宝島社)ほか関西版VOW三部作を上梓。ほか著書多数。最新著書は『恐怖電視台 本当にあった業界の怖い話 芸能界編 』(竹書房文庫)『ジワジワ来る関西』(扶桑社)。