キャラメルボックス『鍵泥棒のメソッド』稽古場より キャラメルボックス『鍵泥棒のメソッド』稽古場より

演劇集団キャラメルボックスが、5月より『鍵泥棒のメソッド』を上演する。第36回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した、内田けんじ監督による映画の舞台化。4月下旬、この稽古場を取材した。

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物語は、売れない貧乏役者・桜井武史と記憶喪失の殺し屋・コンドウの人生が入れ替わることから始まる、スリリングなコメディ。先の読めないストーリー自体も面白いものだが、様々にシーンが変わり、細かく伏線が張られた映像ならではのテンポ感も魅力の映画だ。この作品の舞台化は一体どうなるのか、そんな思いで訪れた稽古場でこの日行われていたのは“転換の稽古”。シーンとシーンの間の転換に特化して行う稽古らしい。訊いたところ、通常の作品では転換のみの稽古を日にちを設定して行うことはあまりないとか。つまり今回は舞台作品には珍しくシーン数が多く、めまぐるしく場面を変えていくものになっているのだ。キャラメルボックスは果敢にも、映像ならではと思われたその魅力を削ぐことのない舞台化を目指しているらしい。

今回は桜井、コンドウ、そして彼らの入れ替わり騒動に巻き込まれる婚カツ中の女性・水嶋香苗の3役がダブルキャスト。まずは〈BLACK〉チームがとあるシーンを通す。続いて〈WHITE〉チーム。セリフは同じながら、2チームの動線が全く異なっている。脚本・演出を手掛けるのは成井豊。いつもは明確なビジョンを俳優たちに伝えていく演出をとることが多い彼だが、この日は「好きに動いてみて。改良してくれてかまわないから」という言葉を口にした。今回の作品、俳優たちに委ねられた部分も多いようだ。その成井に応えるように、俳優も「ここは前を通らない方がいいと思う」「その動線だと運動量が減って(視覚的に)静かになっちゃうかも」等々、積極的に意見を出していく。

同時に、この舞台では俳優たち自身がセットの転換をしていくが、誰が何をどのタイミングで設置し、それを引っ込めるか…という細かい確認も取られていく。ここでも「私、ここで机を出すと、次のシーンに間に合わなくなります」「じゃあこうしよう」等々、活発な意見が交わされる。その動線の組み立ては、なんだかパズルのよう。

一方で、欠点を抱えつつもその欠点ごと愛らしい、といった個性豊かな内田作品のキャラクターも、俳優陣は見事に体現しているようだ。桜井を演じる畑中智行、多田直人はともに情けない表情に味があるし、コンドウを演じる阿部丈二、岡田達也は飄々とした中にも不器用な生真面目さを上手く表現。彼らが見せる表情に稽古場はしばしば大きな笑い声が上がっていた。イキイキとした稽古場からは彼ら自身がこの舞台化を楽しんでいることが伝わる。彼らが生み出す舞台の誕生を楽しみに待ちたい。

公演は5月10日(土)から6月1日(日)まで東京・サンシャイン劇場、6月5日(木)から10日(火)まで兵庫・新神戸オリエンタル劇場にて。チケットは発売中。なお4月29日(火)にはWOWOWプライムにて映画『鍵泥棒のメソッド』を放映、こちらも併せてチェックを。

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