『肉』 (C)2013 We Are What We Are. LLC.

カンヌやサンダンスなど世界の映画祭で大きな話題を呼んだ映画『肉』が10日(土)に公開を迎える。アメリカの小さな町で暮す一家が行っている“秘密の儀式”をめぐるドラマを描いた衝撃作だが、監督を務めたジム・ミックルは観客が“共感”できるドラマ作りを目指したという。

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本作の舞台はアメリカの小さな町。そこで暮す善良な一家の母エマが謎の死を遂げる場面から映画は始まる。厳格な父フランクは母の死を知り、ふたりの美しい姉妹アイリスとローズに一家が先祖代々から伝わっている“秘密の儀式”を引き継ぐように告げる。映画は、一家が続けてきた儀式と、それを継ぐことになった姉妹のドラマを描いていく。

本作は、メキシコ映画『SOMOS LO QUE HAY』と関係がある。製作陣は当初、この映画をリメイクする計画でミックル監督を起用したが、彼は「実際に映画を観てどうやってリメイクしたらいいのかわからなかったんだ。映画はとてもメキシコ的で、メキシコの風土や文化に基づいていると感じた。だからアメリカを舞台にして、その環境を利用しつつ、宗教的な要素を反映させ新しいバージョンとしてこの物語を作ったら面白いだろうと思った」と振り返る。

しかし、彼は「『悪魔のいけにえ』的なものからは距離を置きたいと思った」と語る。『悪魔のいけにえ』はアメリカの田舎町で暮す恐ろしい殺人鬼レザーフェイスの凶行を描いた人気作だが、彼は「あの映画は大好きだけど、あれとは異なるオリジナルなものを作りたかった」という。「だからもっと、アメリカの田舎町の風習や彼らの傲慢さを描くようにしたんだ。アメリカの小さな田舎町はとても美しくもあるし、同時に恐ろしくもなる。この映画では日本のホラーをデヴィッド・リンチが撮ったような感じにしたいと、撮影監督に相談したんだ。カントリー・サイドが舞台で、サウンド・デザインも奇妙で、映像的に雰囲気がある」。本作は“衝撃”という言葉で紹介されることが多いが、作品を観ると繊細な演出がいたるところに施されており、恐ろしさと違和感がじわじわと迫ってくる感覚を味わえるはずだ。

と同時に監督は“儀式”を継ぐことになった姉妹のドラマもしっかりと描いている。社会から隔絶されて育った姉妹は、母の死をきっかけに自らに課せられた役割に向き合い、次第に外の世界に目を向けていく。ミックル監督は「この映画では、たとえ彼らの行いがどうであれ、観客がどこか共感できるようなところを持たせたかった。エンディングも、グロテスクでありながらも観客が憐れみを感じられるようなものを目指した」と説明する。

衝撃的だが共感と憐れみを感じる結末とは? それを日本の観客はどう受け止めるのか? 今週末の公開が楽しみだ。

『肉』
5月10日(土)より新宿武蔵野館にてレイトショー公開