(写真左より) 原博実専務理事兼技術委員長、アルベルト・ザッケローニ監督、矢野大輔通訳  撮影:大崎聡

使い古されたフレーズに隠れた確固たる決意

ザッケローニ監督の記者会見は、新聞記者泣かせで知られる。今回のブラジルW杯で明確な目標は口にしていない。本田や香川らエースについて熱弁をふるったりもしない。

W杯出場後の日本代表監督は、記者会見で個性を発揮してきた。岡田武史は故事成語を駆使した。オシムはウィットに富んだサッカー哲学を披露した。ジーコはメンバー発表の段階で「もし明日試合が行われるなら」という前提でスタメンを語った。トルシエは独演会さながらに質問そっちのけでマシンガントークを繰り広げたこともあった。

翻ってザックの記者会見は非常にオーソドックスなものである。今回の記者会見でも、ザッケローニ監督は「第一にクオリティを考え、次にチームの和を大切にする選手。戦術理解度の高さ、またはユーテリティ性、ふたつ以上のポジションをカバーできる選手を選出した。同じ実力の選手がふたりいるならば若い選手を選んだ。タフな移動、高温多湿な環境の中、フレッシュな選手を選びたかったから」と選考基準を語った。

さらにこうも言った。「W杯ではやりたいサッカーがある。リアクションサッカーではなく、自分たちのやりたいサッカーをピッチ上で出せる選手を選んだ」と。

「自分たちのサッカーをする」とは、使い古されたフレーズである。敗戦を喫した後、「自分たちのサッカーができなかった」というセリフは、「決めるべき時に決めないとこういう結果になる」と同様に頻繁に耳にする言葉だ。

だが、決して新鮮ではないこのコメントにこそ、ザックの確固たる決意が表れている。

 

昨夏の記者会見で垣間見えたザックのユーモア交じりの本音

昨夏のことである。8月29日、ガーナ戦のメンバーを発表したザッケローニ監督は、記者の質問にユーモアを交えながら、本音を口にした。

最終予選終了後の日本代表はその後、8試合を戦い3勝1分4敗17得点19失点という成績だった。ブラジルに3失点、イタリアとウルグアイに4失点を喫していた。守備の建て直しについて質問を受けた指揮官は、「私が監督に就任した当初は決定力不足を解消するように言われた。それから私は決定力不足を解消しようとしてきて、今解消しつつあるのだが」と返したのだ。

ザックは続けた。

「もし、世界中のDFの中からメンバーを選んでいいと言われても、このメンバーとそんなに変わらないくらい私は選手たちを信頼している」

 

 

5月12日も、ザッケローニ監督は「自分たちのサッカー=攻撃スタイル」を貫くことを約束した。

大会のダークホース・コロンビア、アフリカの雄・コートジボワール、堅守速攻のギリシャと対峙するW杯でも「主導権を握るのが大前提。状況によっては主導権を握れない試合展開も想定しているが、そうならないような準備をしていく」とキッパリ。

信念は曲げない。

「いいパフォーマンスを求めればいいのか? もちろんW杯では結果も出さなければいけない。だが、経験則として、いいパフォーマンスを見せればいい結果につながる可能性は高い」