『ドッハック セカイの向こうに』(C).hack Conglomerate 拡大画像表示

また、ゲーム、アニメ、コミック、ノベライズなど、メディアミックスで展開されてきたタイトルの映画化となる、『ドッハック セカイの向こうに』。監督を務めるのは、ゲームシリーズ全タイトルのディレクションを手掛けてきた、ゲーム制作会社・サイバーコネクトツー代表取締役社長で監督の松山洋。フル3DCGアニメーション映画となる本作では、ゲームを手掛けてきたスタッフだからこそできた、最新の技術と表現による映像の世界が展開されている。
制作陣が目指したのは、無理と無駄のないCG表現。さまざまな検証をおこない、観客の目の負担にならない視差、滑らかでいて奥行きある表現で映像が描き出されている。同シリーズではネットゲームの世界が描かれてきたが、今作が描いているのは、そのプレイヤーたちの人間模様に触れた青春ストーリー。リアルな日常が繰り広げられる現実パート、そしてゲームパートで、それぞれイラストタッチ、CGタッチと絵柄と表現が違うのも注目だ。

3Dの動き・カメラワークと2Dの演出のよさをひとつに

『009 RE:CYBORG』
(C)Production I.G (C)ISHIMORI PRODUCTION INC.
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そして、『攻殻機動隊 STANDALONE COMPLEX』『東のエデン』と話題作を発表し続ける神山健治が『009 RE:CYBORG』で挑むのは、セルアニメそのものではない、セルルック(セル画のアニメーションのように見える)の3Dアニメーション。原作はもちろん、サイボーグ戦士たちの戦いと彷徨を描いた、石ノ森章太郎の『サイボーグ009』。不朽の名作を、アナログとデジタルの融合表現でまさに現代に蘇らせている。
「3Dによるアニメーションは、かなり前から制作するべきだと主張してきた。ただし、フォトリアル表現のアニメーションは時間も予算も掛かり過ぎて、難しいことも多い。でもセルルックだと今までやってきた演出の延長戦でやることもできるし、3Dのよさを活かした演出もできると考えていました」と、神山。「3Dは確実に演出の幅を広げる」とも語る。
「アニメーションは自由な動きや表現をしてもいいはずなのに、キャラクターがリアルになればなるほど、嘘ばかりが目立ってきてしまう。セルアニメのよさはやっぱり絵そのものが動いているというところ。絵はいい意味でいろいろな嘘を内包して
くれる。そこにもセルルックのよさがあるんですよ。更に3Dだと、手書きのセルアニメではできなかった表現ができるようになった。カメラを大胆に回り込ませたり、ハンディーカメラで撮影したようなブレの表現もできるようになった。手書のセルアニメでは、カメラが動いているキャラクターを回り込んだりする場合、それを正確に手で描き起こすことは不可能だったわけですが、3Dで作ったキャラクターなら実写のように芝居をつけたた上でカメラを回り込ませながら撮影できるわけです
から。ただ、それはリアルな表現をしたいということではなくて、3Dならではの表現方法により、演出の幅を広げられるということなんです」
神山は「3Dは表現の裾野と同時に、人材確保の裾野も広げてくれるものだと思う」と語るが、まさに今、その広がりの時期。さらにそこから新たに生まれてくるものによって、2Dと3Dというジャンル分けも、そして映画というもの自体も変わっていくことは確かだろう。

 (『MOVIEぴあ 2012冬号』より)

参考サイト

わたなべ・みお ライター。マンガ・アニメ・映画などを中心に、雑誌や書籍で執筆。映画の宣伝ライティングも務める。近著に、『このマンガがすごい! 2012』(宝島社/共著)。主な著書に、『プロジェクトTHE LAST MESSAGE 海猿』『ROOKIES-卒業-~軌跡 完全シナリオ&ドキュメントブック』(共にぴあ)など。

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