(左から)奥原浩志監督、中泉英雄

釜山国際映画祭でグランプリに輝いた『タイムレス・メロディ』や『青い車』など寡作ながらその作品がいずれも高い評価を得ている奥原浩志監督。2008年、新たな創作活動を模索した彼は中国に渡り、現在も同国に活動の拠点を置きながら、現地の映画人と交流を深めてきた。そこで積み重ねた経験のひとつの結晶ともいうべき1作が最新作『黒四角』だ。

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まず、本作は中国・北京で撮影。日中のインディペンデント映画界のスタッフとキャストが顔を合わせた。その体験を監督はこう語る。「あくまで自分が中国で培ってきた延長線上にあったので、合作そのものを意識することはありませんでした。ただ、名ばかりではない日中の映画人がつながって挑む真の日中合作を目指したところはあります」。一方、中国作品への出演経験も豊富な主演の中泉英雄もこう明かす。「中国と日本ではスタイルの異なる部分がある。監督には失礼ですけど、内心、果たして全員をまとめられるのかなと。また、描く内容も微妙な日中問題を含んでいましたから」。

こう中泉が指摘するように本作で注視すべきはストーリーだ。荒涼とした大地に扉のような形をした黒い四角の物体から謎の男が出現。現代の中国に降り立った彼の脳裏に甦る記憶の断片がいつしか戦時中の物語を形成し、日本と中国の現在と過去をつなぐ愛の物語が語られる。その中で、戦争という題材に踏み込んだ。「中国に渡って日中の過去と歴史に自分もしっかり向き合わないといけないと強く感じました。その中で、いざ中国で映画を撮ると考えたとき、思ったんです。どうせなら1番難しい題材から取り組んでみようと」(奥原)、「中国人と日本人双方の気持ちをきちんと汲んだ内容ではある。でも、正直思いました。本当に中国でこういう難題の映画を撮りきれるのかと。今はやってのけた監督に感服しています」(中泉)。

戦争という危うい題材、それを中国本土で日本人監督が撮った事実、日本人兵士と中国人女性の恋愛など、いろいろな点が問題を含むことから本作は未だに中国本土での公開は認められていない。「もともと中国にはインディペンデントを上映する劇場はほぼないので、この作品が映画館でかかる可能性は低い。でも、審査を通るとネットでの上映などが可能。どんな形でもいいので中国の人々に届けたい」(奥原)という理由から現在も上映許可の交渉を粘り強く続けている。ひとりの日本人監督が中国で挑んだ意欲作に注目を。

『黒四角』
公開中

取材・文・写真:水上賢治