『マンデラ 自由への長い道』の製作を手がけたアナント・シン

南アフリカでアパルトヘイト(人種隔離政策)の撤廃のために活動した指導者ネルソン・マンデラの自伝を映画化した感動作『マンデラ 自由への長い道』が間もなく公開される。マンデラ本人から映画化を託された南アフリカの映画プロデューサーのアナント・シンは、16年の歳月を投じて本作を完成させた。

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本作は、国家反逆罪に問われて27年間、獄中で暮すも自らの信念を決してまげることなく、民衆と世論を動かし隔離政策撤廃を実現した彼の生涯を描いた作品で、シンは1995年にマンデラ本人から自伝を渡され、映画化をゆだねられた。「最大の難関はあれだけの壮大な人生をいかにして凝縮するかということでした」。しかし、本作では多くの伝記映画のように、年号や出来事を伝えるテロップやナレーションはほとんど登場しない。「脚本の段階ではもっと説明が含まれていたのですが軌道修正したのです。この映画は観客にマンデラの人生の旅路を“体験”させる映画なのだから、余計な説明は不要です」。

シンの語る通り、本作ではマンデラの人生の旅路が描かれる。そこには社会を変えようと戦う男の顔が描かれるのと同時に、自身の弱さから妻を裏切る夫の顔や、暴力に逃げ込む男の顔も描かれる。「マンデラは自分が聖人ではなく欠点もあるひとりの人間であると心から信じていました。だから映画化の際にも『欠点や間違いも含めて等身大の人間として描いてほしい』と言われたのです」。

有色人種の自由を勝ち取るために戦ったマンデラの人生は“正しさ”に満ちている。しかし、マンデラ本人もシンも“正しくない”側面や、正しさと引き換えに犠牲になったものを描くことを求め、結果として“ラブ・ストーリー”が映画の中心に据えられることになった。最初の妻との別離、同じ志をもち活動を続けながら結ばれるも最終的に袂を分かった妻ウィニーとのドラマは、彼の政治的な功績と違い、観る人によって様々な印象を残すだろう。シンは「アパルトヘイトが撤廃され、彼は人生で最大の栄光を感じるはずだったのに、私生活で大きな犠牲を払わなければならなかったのです。この映画はラブ・ストーリーとして成立させることを課題にしました。通常の伝記映画ではなく、観客が個人レベルで感情移入して共感できる映画にしたいという想いがあったからです」と説明する。

多くの伝記映画で観客は鑑賞して学習する。しかし、『マンデラ 自由への長い道』は観客が考え、共感したり反発できる映画として製作された。シンは「映画を通してマンデラの人生を体験し、様々なインスピレーションを得て、自分の人生をより良いものにしてもらえれば」とメッセージをおくった。

『マンデラ 自由への長い道』
5月24日(土)公開