2.対決期・ラブコメ期

15巻からライバル新聞社が「至高のメニュー」企画を立ち上げ、山岡と栗田さんは究極側の担当者として否応なく争いに巻き込まれていきます。しかも至高側の担当者は海原雄山! 父子の対立が大手新聞社の勝負とも絡み合い、ハイレベルでスリリングな料理対決のシーンが何度も描かれます。

また、栗田さんの女子力ならぬ“ヒロイン力”も格段にアップ。山岡に嫉妬したり、まわりから焚き付けられて赤面したりする甘酸っぱい展開が増えてきます。山岡には大財閥の令嬢、栗田さんにはイケメン青年カメラマンとイケメン社長が想いを寄せるという複雑な人間模様が絡みあいながら、最終的に山岡が栗田さんへプロポーズを成功させます。連載スタートから10年あまり経過した、43巻での出来事です。

この時期になると雄山もかなり性格が丸くなって、他人を思いやる描写が増えるほか、料理対決に敗れた山岡へ“人に感動を与えるのが料理だ!”と正論を説くシーンもたびたび見られます。栗田さんに“試験”を課してクリアしたら2人の披露宴に参加するなど、ガンコさを残しつつ物分かりがよくなりました。暴れん坊から人格者への見事なジョブチェンジを果たしたのです。

47巻では山岡と栗田さんの披露宴が催され、出席した雄山がそれとなく“息子への愛情”を見せるシーンは必見。のちの和解に繋がっていきます。

 

3.和解期

結婚してからは従来の人情コメディや究極vs至高対決に加え、まだまだ雄山への確執が解消できない山岡への“人格矯正”が行なわれていきます(栗田さん主導で)。さすがに2児の父となったからには、以前のような無頼派気どりではダメということでしょう。

この時期、卑劣な手段で東西新聞社を乗っ取ろうとした“黒いマスコミ王”金上が新たな脅威として登場。山岡が窮地に立たされた時は雄山が助け、雄山が金上のワナにかかった時は山岡が救いの手を差し伸べるなど、究極と至高のタッグによる共闘が見られました。こうした経緯を重ね、かたくなだった山岡の態度も少しずつ軟化していきます。

そして記者が個人的に『美味しんぼ』最高のエピソードと感じたのは67巻に収録された「雄山の危機!?」です。雄山が不慮の事故で意識不明に陥った際、山岡は実家でもある高級料亭「美食倶楽部」へ乗り込み、雄山不在のなかで料理人たちを見事に使いこなして重要な接宴をやりとげます。父と子が直接かわした言葉は少ないですが、さりげない無言のコマにも両者の心情が込められていて、何度読んでもジーンときます。
 

ただ、2人とも比類なきガンコ者なためか、完全な和解に至るまではさらに年月を要します。山岡と雄山が母親(妻)の写真を見ながら盃を酌み交わしたのは102巻。連載開始から25年が過ぎていました。

この出来事は“歴史的和解”として一般のニュースでも報じられたので、ご存知の人は多かったでしょう。単なる漫画中の出来事が広く報道されるあたり、『美味しんぼ』がもつ影響力の大きさを感じさせられます。