クリストフ・オーファンスタン監督(c) 2013 GAUMONT - LES FILMS DU CAP - TF1 FILMS PRODUCTION - SCOPE PICTURES - A CONT

日本ではさほど知られていないがクリストフ・オーファンスタンはフランスの名撮影監督。ギョーム・カネら名だたる監督の撮影を担当している。これまでカメラマンとして活躍してきた彼が、今回『ターニング・タイド 希望の海』で初監督に挑んだ。

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「長年、撮影を通して俳優と強い信頼関係を築く中で、いつか彼らと映画を作りたいと思っていたんだ」と語るクリストフ監督。その念願の監督デビュー作で、単独、無寄航、無援助が条件で約100日かけて世界一周をする世界最高峰のヨットレース“ヴァンデ・グローブ”を題材にした理由をこう明かす。「未知の世界に挑むとともに自身の人間性が試される“冒険”に私は心を惹かれるんだ。実は僕自身、ダカールラリーにオートバイで参加したりしていてね。だから、初の監督作は“冒険映画”との気持ちがあったのは確かさ(笑)」。

作品はレースに挑むヤンの故障で停泊中のヨットに、フランスへ渡ることを夢見るカナリア諸島出身の少年が潜入。ルール上失格になるが海原に彼を見捨てることもできない状況に陥ったヤンを主軸にした物語が展開していく。その中身は手に汗握るアドベンチャー映画に仕上がる一方で、移民問題などに対する強いメッセージも込められる。「人と人は国籍などを超えて理解し合い、連帯できること、そして、人間にはそういう偉大な魂があることを描きたかった」。

驚くことに撮影は実際のレースさながらに海上で43日間に渡って敢行。2012年のヴァンデ・グローブに出場した実物のボートを使い、時に自然の猛威にさらされながら行われた。「今は特殊映像技術を駆使してもできる。でも、私は本物の持つ圧倒的な現実と真実を映像に焼き付けたかった。この判断に間違いがなかったことは映像を見てくれればわかるんじゃないかな」。

主演は『最強のふたり』の首から下が麻痺した富豪フィリップ役で日本でも一気に認知度を増したフランソワ・クリュゼ。フランスの名優である彼とは旧知の仲だった。「そのシーンを撮る絶好のタイミングがいつ来るかわからないのが海上の撮影。長く待たされることもあれば、瞬時に演技を求められるときもある。精神的にも肉体的にも大変だったと思うけど、彼の集中が途切れることはなかった。改めて最高の俳優だと思ったよ」。

電気技師として映画界に入り、撮影監督を経て、監督デビューを果たしたクリストフ監督。50代の新鋭が過酷な撮影の末に完成させた入魂作に注目だ。

『ターニング・タイド 希望の海』
5月31日(土)より新宿シネマカリテにて公開

取材・文:水上賢治