舞台『昔の日々』 舞台『昔の日々』

演出家デヴィッド・ルヴォーが、ハロルド・ピンターの3人芝居『昔の日々』を手がける。近年ではミュージカルやオペラの演出でも世界的に活躍するルヴォーだが、少人数による濃密で繊細なストレートプレイはまさに本領発揮。堀部圭亮、若村麻由美、麻実れいというキャスト3人の顔ぶれからも、“大人のための大人の芝居”に期待が高まる。

舞台『昔の日々』チケット情報

「圧力鍋や火山のように、ものすごく感情が凝縮された芝居なんです」というルヴォー。夫と妻、妻の友人という女ふたりと男ひとりの会話劇には、常にどこか緊張感が漂っている。何気ない会話をしながら妻と友人との関係性を探る夫、“夫の知らない”妻との思い出を語る友人、不自然なほど沈黙を続ける妻──それぞれの思惑が交錯し、ふとした言葉の端々から、あるいは会話の“間”から、3人の力関係が微妙に変化していくのだ。ピンター作品を数多く演出し、ピンター本人からの信頼も厚かったルヴォーによれば、「人にお酒を注いであげるという動作を、火山の火口でしたら全く違う意味になりますよね?」。なるほど、一見何でもないようなシンプルな会話の中に、実はとんでもなくスリリングなものが潜んでいるらしい。

ルヴォーの初来日・初演出作『危険な関係』(1988年)以来、ルヴォー演出作品に数多く出演してきた麻実は「デヴィッドとの創作はいつも戦いなんです。久々に再会してみると、十数年という時が一気に消えてしまったような不思議な気分」と感慨を深める。「3人とも嘘か真実かわからない台詞の応酬で手ごわい戯曲だけれど、デヴィッドの緻密な稽古で素敵な舞台を創っていけたら」。やはりルヴォー演出経験のある若村は、「デヴィッドは戯曲の中からセクシャルな部分を見つける達人。女性の性に対する探究心が強いからこそ、セクシーでミステリアスなこの作品にはぴったりだと思う」と、ピンターが本作の演出家にルヴォーを指名していた理由に納得の様子。若村演じる妻を中心に麻実、堀部が心理的駆け引きを繰り広げる鍵となる役どころでもあり、「圧力を受け続け、噴火する瞬間を見つけていきたい」と話す。そんな女性陣に挟まれた堀部は、今回がルヴォー演出初体験となる。本読み稽古初日には、あまりの濃密な時間に自宅への帰り道を間違えるほど放心状態だったとか。「それはいい傾向ですよ」と笑うルヴォーに「自分でもそう思いました。正しく冷静さを欠いてるなって(笑)」と堀部。「自分がこの戯曲に拮抗しうるのか試されていると思う。女性の奥深さ、怖さを感じながら、高く厚い壁に立ち向かっていきたい」と決意を語る。

「最少限の音で表現された美しいメロディのような作品。経験を積んだ俳優だからこそできる戯曲です」というルヴォーの言葉に、男女の深遠に触れられる極上の舞台の誕生を予感した。

公演は6月6日(金)から東京・日生劇場、6月19日(木)から大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて。6月8日(日)公演終了後にはルヴォーによるワークショップが開催されるほか、各種特典つきチケットも発売中。詳細はチケット情報ページにて。

取材・文:市川安紀