『ハミングバード』を手がけたスティーヴン・ナイト監督(C)2012 Hummingbird Film Investments LLC

ジェイソン・ステイサムの主演最新作『ハミングバード』が7日(土)から公開される。本作で監督を務めたのは『イースタン・プロミス』や『堕天使のパスポート』の脚本を執筆したスティーヴン・ナイトで、ステイサムの魅力を活かしながら、重厚なドラマを描くことに力を注いだようだ。

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本作の主人公はロンドンでホームレス生活をおくっている男ジョゼフだ。彼はかつて特殊部隊を率いる軍曹だったが、そこで犯した罪を逃れ、名前を消して生活している。やがて彼は唯一心を通わせていた少女が拉致されたことから、別人の身分を借りて立ち直り、裏社会に潜入して彼女を救おうとする。現代社会の抱える問題や、そこで生きる人々の苦しみをリアルに描いてきたナイト監督は、本作でも退役軍人やロンドンでホームレス生活を送っている人々に話を聞き、“生きた声”を脚本に織り込んでいったという。「ロンドンという場所が興味深いと思うのは、食べ物もお金も持っていない人たちが、ロンドンの中で最も高い物件であるロフトの近くに住んでいることだ。そこで“下の人が上にいったらどういうことが起こるのか?”と考えたんだ」。

さらに本作は欧州の移民の問題についても扱っている。ナイト監督が「世界中の人が新しい人生を求めてやってくる場所」と説明するロンドンは、移民の数が増加しており、現在では人口の過半数を超えている。「古いアイデンティティを捨て、新しいアイデンティティを手にするために多くの人が集まってくる都市だ。新しい場所に来て新しいアイデンティティを持って新しい生活をする、これは場所がどこであろうと移民に共通することじゃないかと思う」。

劇中でジョゼフは軍人だった過去を捨て、ホームレスだった自分を捨てて、他人になって復讐を遂行していく。しかし、彼は過去の自身が戦地でしたことを忘れることができない。「どんなに過去から逃げて自分を変えようとしても、人間は本来の自分というものを明らかにしてしまう。ジョゼフは自分が間違いを犯したということをよく分かっているんだ」。ちなみに映画のタイトルになった“ハミングバード”はジョゼフが軍曹として赴任していたアフガニスタンで使用された無人偵察機の名前だ。「ロンドンは監視カメラの数が世界でも最も多い街なんだ。ロンドンにいる以上、我々は常に監視されている。もし見ている存在が神ならばいいのかもしれない。でも、彼らは神ではなくて、神のようにふるまっているだけだ」。

すべてを許す神のいない世界で、男は自身の罪と過去にケリをつけるべく戦いに挑む。それは正義なのか? それとも罪を重ねることなのか? ステイサムのクールなアクションだけでなく、そこで描かれるドラマにも注目したい作品だ。

『ハミングバード』
6月7日(土)より新宿バルト9ほか全国ロードショー