『ノア 約束の舟』を手がけたダーレン・アロノフスキー監督

映画『ノア 約束の舟」が13日(金)から公開になる。旧約聖書に登場するエピソードを映画化した作品だが、ダーレン・アロノフスキー監督は「これは宗教説話ではなくひとつの“神話”だと考えている」という。その意図はどこにあるのか? 来日時に話を聞いた。

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堕落した人間を滅ぼすために地上からすべての生きものを消し去ることを決めた神は、ノアに罪もない動物を守るための箱舟を作るように命じる。やがて大洪水が来て、すべてが水に飲み込まれた後、神はノアにさらなる試練を課す。アロノフスキー監督は、誰もが知っているエピソードを最新のVFXを駆使して描き、聖書に記述されていない部分を深い人間ドラマで満たした。

しかし、監督は本作を“聖書の映画化”とは考えず「神話として捉えるようにした」という。「創世記の最初の10章はこの世界ができるまでの神話だと私は考えています。天地創造、ノアの物語、バベルの塔へと続く一連の物語は“奇跡”を中心とした物語です。これらは“世界のなりたち”を説明するものであって、宗教に関係しているというよりも、地球上のすべての人間に関係のある話だと思ったんです。だから私はこの物語を史実や説話ではなく“神話”であると考えることにしました」。神話学によると、神話は“1回しか起こっていない”にも関わらず“同じような物語が各地で語り継がれている”という。「独自の洪水物語を持つ文化も他に数多くあります。この物語には人類の根源となる何かがあるんです」。

監督の宗教に対する絶妙な距離感は、劇中に登場する天地創造の場面にもよく現れている。神が“光あれ。”と言い、地と空が生まれ、草が生え、生きものと人間が生まれる。アロノフスキー監督はこれらのシーンを聖書の記述を基本にしながら、そのまま映像化するのではなく、最新の科学の研究成果や知見を取り入れて、数分間のシークエンスにまとめあげた。「このシーンはずっと描きたかった場面です。私は天地創造の記述を“詩”だととらえるようにしました。そうすると科学的な知見に近くなると思ったのです。アメリカは今でも進化論を否定し、この地球は本当に6日間でできたと信じている人がかなり多くいます。私はそれは危険なことだと思っていますから、詩だと考えるのが良いと考えました」。

本作は聖書に描かれた最も有名なエピソードを映画した作品だが、そこに描かれているのは私たちがよく知る“神話”であり、どんな信条の人にも響く“詩的な映像”だ。アロノフスキー監督は以前から本作について「信仰がない人に伝えたいのは説教くさい聖書映画ではないということ。単なる子供向けの物語でもない。人類を描く壮大なストーリーなんだ」と繰り返しメッセージをおくっている。

『ノア 約束の舟』
6月13日(金)から全国ロードショー