松山ケンイチ、蒼井優

名カメラマンとして数々の作品を手掛けた木村大作の監督2作目『春を背負って』。厳しくも美しい自然に抱かれながら、命の輝きを見つめたヒューマンドラマで、共演を果たした松山ケンイチと蒼井優が、初タッグを組んだ名匠の“背中”に見た映画作りの神髄とは?

その他の写真

笹本稜平氏の同名小説を原作に、都会で暮らしていた主人公・長嶺亨(松山)が亡き父の山小屋を受け継ぎ、大自然に触れながら生きる力を取り戻していく。初メガホン作『劔岳 点の記』に続き、木村監督が山岳映画に挑み、標高3000メートルの立山連峰でのロケを敢行。四季の自然美を切り取るため、撮影には約1年が費やされ、キャスト陣も過酷な自然と対峙した。

「現場では自然に逆らわず、その場に立って自分の声に耳を傾けることに集中しました。何より大作さんは、ウソをすぐに見抜く監督ですから、自分をどう見せたいか、なんて考えは通用しない。体力的にもキツイ経験で、最後は気合いで乗り切りました。撮影というよりは、部活ですね」(松山)。

蒼井は亨とともに山小屋で働くヒロイン・高澤愛を演じる。「現場で感じたのは、自分の命を自分で守らなければいけない責任感。それに自然に身を置くことで、職業や年齢、性別といった自分にまつわる“記号”がそぎ落とされる感覚を覚えました。木村監督が演出するのは役者ではなく、現場の空気。そこに身を委ねて無心にお芝居しました」(蒼井)。

ふたりが体験したのは長年、映画作りに心血を注ぎ続けた木村監督が導く“奇跡”のような瞬間の数々だった。「撮影中、大作さんの望む通りに、山の天気が変わるんですから、僕らは驚かされるわけです。でも、それは情熱的な大作さんへの自然からの“お返し”なのかなって。成功も失敗もあるけど、どうせなら何事にも思いきりぶつかりたい…。木村監督の姿にそんなことを学びました」(松山)、「ずっと日本映画界を支え続けた木村監督を、ここまで夢中にさせるもの。それが映画なんだと改めて感じました。木村組全体がまっすぐ健全に仕事を楽しんでいる。人生の素晴らしさを、背中で見せてくださった」(蒼井)。

『春を背負って』
6月14日(土)全国東宝系ロードショー

取材・文・写真:内田 涼