浦井健治 浦井健治

日本だけでも販売部数300万部を超えるSF小説『アルジャーノンに花束を』。ダニエル・キイスが発表したこのベストセラーがミュージカル化されたのは2006年。大きな評判を呼び、長らく再演を望まれていた舞台が、8年の時を経てついに蘇る。主人公チャーリィ・ゴードンを演じるのは初演と同じく浦井健治。劇中のチャーリィと同じ32歳という年齢でふたたび同役に挑む浦井に話を訊いた。

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今や日本演劇界の名だたる演出家の作品にひっぱりだこ、昨年はユニット“StarS”として日本武道館公演も成功させた浦井。初演は、その彼の初主演作だった。「今でも8年前、初主演のプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、カンパニーが一丸となって作品を作っていく、その過程ひとつひとつを鮮明に覚えています。もともとこの作品は“オリジナルミュージカルを作ろう”ということが、皆にとってひとつの夢だったんですよ。ゼロから皆で作っていった作品であり、自分の中で思い入れのある、宝物のような作品です」。

主人公のチャーリィは、32歳になっても幼児なみの知能しか持たないパン屋の店員。だが“かしこくなりたい”という思いを持ち、脳手術の臨床試験の被験者となる。「初演の時、チャーリィが何を思っていたのか、その根本を知らなければと思い、ある施設に自分ひとりで足を運び、チャーリィと同じような人たちに会いました。チャーリィは実験の結果、知能が急激に上がり、そしてまた退化していく。僕はそのことで頭がいっぱいになってしまって、その過程をどう演じ分けようかと考えてしまっていたんです。でも彼らに会い、輝いている笑顔を見て、僕は大きな勘違いをしていたと気付いた。ただチャーリィは友達が欲しかったんだ、人と共に生きたかっただけなんだと。“あぁ、ひとりの人間を演じればいいんだ”と学んだんです」とチャーリィと真剣に向き合った思い出を振り返る。

「初演は体当たりで演じていました。今回はそれを踏まえ、今の自分がやれる限りのところを目指すには何が必要かというと、やっぱり読み込むことかな。だからずっと原作や台本を読んでいます。それに、きちんと自分を俯瞰して見たい」。そう話す彼は、8年のあいだに演技者としての幅を広げ、硬派なストレートプレイから大作ミュージカル、そしてコメディと柔軟にこなす俳優となった。だが大きな魅力である繊細さ・純粋さは損なわれるどころか、今も増しているように感じる。「演出の荻田浩一さんにも「あまり変わっていないね」って言われました(笑)。そこはいい意味に捉えて、“ピュアなチャーリィ・ゴードン”というものを核にしたいとは思います。人への愛というものを大切にするチャーリィでいたいというのは、今も思っているので」。にっこりと笑うその瞳の中には、たしかにピュアなチャーリィが変わらずいる。

公演は9月18日(木)から28日(日)にまで東京・天王洲 銀河劇場、10月18日(土)に大阪・サンケイホールブリーゼにて。チケットは6月28日(土)に一般発売を開始する。