子供のためのシェイクスピア『ハムレット』稽古場より 子供のためのシェイクスピア『ハムレット』稽古場より

7月2日(水)、KAAT神奈川芸術劇場公演を皮切りに、全国を公演する「子供のためのシェイクスピア『ハムレット』」。6月某日、その稽古場を取材した。

子供のためのシェイクスピア『ハムレット』チケット情報

今年で20年目を迎える“子供のためのシェイクスピア”シリーズ。稽古場に入ってまず目についたのは四角い机と数々の椅子。同シリーズに欠かせない存在で、今回はこの机と椅子が舞台セットの全てだ。それを動かすのはスタッフではなく、俳優自身。出演者たちは芝居や台詞はもちろん、机と椅子の動かし方も覚えなければならない。どこの転換で誰がどの机を動かせば上手くいくのか、演出家のみならず出演者たちからも意見が飛ぶ。また、机や椅子とともにシリーズに欠かすことのできない、シェイクスピア似の人形や黒い帽子と黒いコートの集団も健在。彼らがハムレット自身の心の声や亡霊たちの言葉を口にすると不思議な迫力と存在感が際立つ。

この日稽古をしていた場面は、先王の父を殺したのは叔父ではないかというハムレットの疑問が確信に変わる、物語の中心部。若松力演じるハムレットは、狂気を演じているのか、本当に狂気にとりつかれてしまったのか、どちらか分からないようなギリギリのラインにいる不安定さ、諸刃の刃のような危うい雰囲気を持ち、観ている側にもピリピリとした空気が伝わってくる。ハムレットの恋人フィーリア役の宮下今日子はシリーズ初参加。シェイクスピア作品への出演も初めてだという。だが、すでにカンパニーにも、シェイクスピアらしいリズムの良い台詞にも馴染んでいる様子。

演出・出演の山崎清介は演出家席にいるよりも、立ち上がって出演者たちの中に出て行って演出をつけることが多く、その熱心な演出に、出演者たちも集中力を高めていく。演出はもちろん、出演者たちの予期せぬ表現に思わず笑ってしまう場面もあり、遊び心もいっぱい。真剣で緊迫した場面と、ちょっと力の抜けた笑いを誘う場面のバランスが絶妙で、20年という長い年月観客を惹きつけてきた魅力はここにもあると実感できる。今回観る事ができたのは全体の物語のうちのほんの一部。通しで見られる日がくるのを楽しみに待ちたい。

7月2日(水)から6日(日)までKAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ、7月29日(火)から31日(木)まで大阪・近鉄アート館、9月11日(木)から15日(月・祝)まで東京・あうるすぽっと他、全国で公演。チケット発売中。