歌う曲はすべて深海ザメの一種「メガマウス」をテーマにしたもの

しかし、これほどの美女なのに、ステージで顔を隠してしまうのは、もったいなくないですか?

花井「いえいえ、私はライブのことは“メガマウス啓蒙活動”と呼んでいて、お客さんにメガマウスのことを知ってほしいだけなんです。

メガマウスって本当にマイナーな存在なんです。サメには映画『ジョーズ』のモデルとなったホオジロザメっていう大スターがまずいて、次に人気が高いのがジンベイザメ。続いてシュモクザメ、ネコザメ……というふうに人気ランクがあって、悲しいかなメガマウスのことは誰も知らない。だから私は日々普及につとめています。

とはいえ生態の説明だけしても聞いてもらえないから歌詞に織り込んでうたっているんです。お客さんには、私の顔よりも、メガマウスのことを憶えて帰ってほしいんです」

 

熱唱!「恋するメガマウス娘」

自分の顔より、愛するサメについて知ってほしい。こんなメガ奇特なアイドルが他にいるでしょうか? そんな花井さんがメガマウスと出会ったきっかけは?

花井「小学校のとき、家にあった動物図鑑を開いてみたんです。すると深海魚のコーナーにメガマウスが載っていたんです。初めて見たとき『なんて気持ちが悪い生き物なんだろう』って衝撃を受けました。そのことをずっと憶えていたまま成人して、2009年に友達のおじいちゃんが使っていたWindows98を譲ってもらう機会があって、その時『そや、子供の頃に驚いたメガマウスについて調べてみよう』と思いたったんです。

そうしていろいろ調べているうちに、だんだん『かわいいな』って思えるようになってきてしまって。しまいには毎日毎日メガマウスのことばかり検索するようになっていました。プランクトンを食べるサメは3種類しかいないってご存知ですか? ジンベイザメ、ウバザメ、あとメガマウスなんです。それから……(以下えんえんとメガマウスの魅力について語り続ける)」

こんなふうに、大人になってから、花井さんの頭のなかはメガマウスのことでいっぱい。図鑑によってメガマウスについての記述が異なることが気になり、わざわざサメの権威と呼ばれる博士が英文で書いた論文を入手したり、はく製があると聞けば遠く九州の研究所まで見学に行ったり(しかも自分の誕生日に)、大昔のミニカーカタログに「メガマウス運搬専用車」なるものを発見したり、などなど独自の研究を続けています。