白井晃  撮影:二石友希 白井晃  撮影:二石友希

演出・白井晃演出×音楽・三宅純。これまでも『中国の不思議な役人』『ヴォイツェク』など、芸術性の高い作品で真価を発揮してきた強力タッグが、この夏、新たな挑戦を行なう舞台、それが『Lost Memory Theatre』だ。三宅純が2013年に発表した同名アルバムの楽曲群に想を得て、白井晃が音楽・ダンス・ドラマが交錯するマジカルな舞台へと立体化するという。

『Lost Memory Theatre』 チケット情報

「ここ数年、三宅さんとは年一作ペースで仕事をさせていただいていますが、基本はパリ在住でいらっしゃるので、ネット上でのやりとりが多いのです。そのなかで三宅さんの新譜制作の過程も、ネットの共有ボックスで知ることができた。そもそも、CMに使われていた三宅さんの曲にひと聴き惚れしたのが仕事をお願いするきっかけなくらいですから、アルバムの魅力にヤラれてしまった結果、こんな魅力的で突拍子もない企画を思いついた次第です(笑)」と白井。今年4月にKAAT神奈川芸術劇場のアーティスティック・スーパーバイザー(芸術参与)に就任後、白井にとっては同劇場での、初の制作作品となる。

「最初から、こんな見通しの立てづらい作品をと思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、最初だからこそ劇場のスタッフからプランナー、キャストまでとよく話し合い、意見も出してもらいながら総がかりでなければできないような、ハードルの高い創作がむしろ相応しいと僕は思う。「この劇場で何がやりたいか」を一方的に僕が掲げるのではなく、「この劇場で何ができるか」を関わる人みなで考えていくのが、僕の理想。困難に直面すれば、そのぶんコミュニケーションも深まるはずですから。新たな環境に対する第一歩にピッタリの、挑戦的な舞台になると思います」

実はアルバムにはタイトルに続き「act.1」という表記がある。三宅はこの舞台に合わせて「act.2」を発表。同舞台では新譜の楽曲も使われるという。

「今は2枚のアルバムから選曲し、新たに曲順などを構成しつつ、それぞれの楽曲から僕が感じたイメージ、浮かんだ情景などを作家の谷賢一さんに伝えて、テキストを作成している段階です。出演と振付をお願いしている森山開次さんには、ダンサーのオーディションもしていただきました。劇場にさまよう無数の表現者や観客たちの記憶、堆積する時間が、再び命を得て舞台上でうごめき、観る人を惑わすような作品になればいいな、と。さらには、そんなファンタジックな要素だけでなく、今この時代の日本に生きていることの意味や、自分たちの立ち位置を考えられる接点も作品の中に設けたい」

「これまでは自分の衝動や欲求に基づいた創作が中心でしたが、今回新たな職域を得たことでもっと広い視座、たとえば日本における演劇の現状、公共劇場の果たすべき役割、後進のアーティストと創作上どう関わり、彼らが成長していくサポートをいかにやっていくか、なども考えなければいけなくなるはず。その点でも、この舞台は僕のKAATに対する所信表明になると思います」

8月21日(木)から31日(日)まで。

取材・文:尾上そら