<KeyPerson> 今年2月の事業戦略発表会で8年ぶりとなるコンセプトの変更を発表した日立アプライアンス。広く知れわたった名キャッチコピー「エコに足し算」から卒業し、「ひとりひとりに寄り添い、暮らしをデザインする」というコンセプトのもと、新たな方向に舵を切る。今回、BCNの単独インタビューで徳永俊昭社長が新コンセプトに込めたビジョンを語った。取材・文/大蔵 大輔、写真/松嶋 優子

“エコ”はすでに当たり前 機能訴求からシーン訴求へ

―― 新コンセプトである「ひとりひとりに寄り添い、暮らしをデザインする」について教えてください。これまで「エコに足し算」というとてもキャッチーなコンセプトを8年にわたって展開してきたわけですが、このタイミングでの変更にはどのような意味があるのですか。

徳永 たしかに秀逸なコンセプトゆえに長い間変えなかったということはあります。しかし、これだけデジタル化が加速しているなかで、変わらずにいるということに危機感も抱いていました。また、“エコ”というのは、いまや当たり前の価値になりました。

―― コンセプトの見直しは社長就任後に動き始めたのですか。

徳永 就任後すぐにというわけではありませんでしたが、事業の実態を知るにつれて変更の必要性を徐々に実感していきました。今までの仕事でいかに世の中がデジタル化しているかはわかっていたので、家電の世界に身を置いて、とてもギャップを感じました。

―― ITを基幹にする金融システム事業の出身だからこその気づきがあったんですね。具体的に家電のどのような部分に危機感をもたれたのですか。

徳永 金融システムでいうと、これまで日本企業は得意とする大規模システムをつくりあげるという構造で一定の成功を収めていました。そこにブロックチェーンのような新しいデジタル化の波や、アリババやテンセントなどのIT企業でありながら金融サービスを提供するディスラプターが登場してきた。そこに危機感が生まれていましたが、それでは家電の世界はどうなのかと。

金融システムと家電は実はよく似ていて、すり合わせの世界なんです。不具合を起こさないために徹底した作りこみを行う。デジタル家電では当てはまりませんが、生活家電はまさに日本企業の得意とする技術力を生かせる分野でした。ところが、急速にデジタル化とグローバル化が進んできたことで状況が変わってきた。その危機感が新コンセプトにつながっているわけです。

―― 今回、「ひとりひとりに寄り添い、暮らしをデザインする」というコンセプトに加えて、「360°ハピネス」「ハロー!ハピネス」という標語を発表されています。この違いは何ですか。

徳永 「エコに足し算」のときはこのキーワードに一本化していましたが、今回はわれわれの事業スローガンとして「360°ハピネス」、家電コンセプトとして「ひとりひとりに寄り添い、暮らしをデザインする」、そして製品のキャンペーンワードに「ハロー!ハピネス」を設定しました。

なぜこうなったかというと、これまで「家電の機能を訴求する」というメッセージを前面に出してきましたが、現在のお客さまは「いかに暮らしを豊かにするか」「どう問題を解決してくれるのか」というシーンで製品を購入していると考えたからです。一人ひとりの困りごとはそれぞれ異なります。ゆえにさまざまな要素が凝縮したメッセージになりました。

―― 「エコに足し算」が成功しただけに社内では反発もあったのではないですか。

徳永 ご指摘の通り、「エコに足し算」を設定した当初はこのキーワードにぶらさがる各家電の機能も好評で、他社を圧倒する大きな成果をあげました。しかし、そのアドバンテージはいつまでも続くものではありません。「このままではいけない」という問題意識はそれぞれの社員にも共通してありました。なので、抵抗感はほとんどありませんでした。

新デザインはシリーズで展開 イメージの刷新狙う

―― 新コンセプトのもと、「顧客視点」「デザイン」「スマート化」の三つの方針を掲げています。まず「顧客視点」ではタイに新たにお客さまセンターを立ち上げましたが、これによってどのような変化を期待しているのですか。

徳永 期待しているのは、「寄り添う」ということの徹底です。現地の生活者がどのようなものを求めているのかの分析・検証を強化します。日本ではすでに行っていますが、これを海外にも適用していきます。例えば、日本ではシックなデザインの冷蔵庫が好まれますが、東南アジアでは豪華な模様が入っているデザインなどにニーズがある。“現地スペシャル”ともいえるような製品を増やしていきます。

―― デザインは外部のデザイナーを採用すると発表されています。単一の製品をコラボレーションモデルというイメージでしょうか、それとも製品群を横ぐしにしたシリーズというイメージでしょうか。

徳永 後者を考えています。残念なことに現在の日立の家電のデザインの評価はあまり高くないと認識しています。われわれのデザインチームの中に外部のデザイナーの知見を加え、新しいデザインコンセプトをシリーズで展開していきます。

―― 従来の安心感のあるデザインに愛着があるユーザーもいると思います。これまでとこれからのデザインで棲み分けも考えているのですか。

徳永 お客さまによって棲み分けるということはないです。日立の家電のデザインに対する評価を、誰が見ても評価してもらえるような広く受け入れられるものをつくりあげていきたいです。

自前のテクノロジーに強み 外部連携はオープンスタンスで

―― 最大の変化になるであろうスマート化についてはIoTプラットフォームのLumada(ルマーダ)をはじめ自前のテクノロジーを生かすことがアドバンテージになってくるのでしょうか。

徳永 日立グループのIoTプラットフォームのアドバンテージとなるのは、非常に多くの事業のユースケースが蓄積されていることです。例えば、建設機械の故障の検知や電力使用量の最適化などですが、これは冷蔵庫の故障や洗濯機の電力使用量の最適化など、家電にも生かせますよね。

また、セキュリティが強固であることも、これからの時代には大きな優位点です。われわれのグループは原子力発電所をつくれるような事業体です。これは裏返すと、セキュリティに対して最大限に配慮できる体制をもっているということです。先日もSNSの情報流出といった事件がありましたが、われわれであれば安心して外部に接続できる家電を提供することができます。

―― 現在のIoT家電は自社製・他社製含めて連携機能が限定的であるように思います。ユーザーの買い渋りの原因にもなっていますが、日立としてカテゴリ全体を押し上げるために考えていることはありますか。

徳永 これは「日立がこう考えています」と言った瞬間にローカルな話になります。メーカー単体で独自の世界をつくっていくか、オープンにつながるものをつくっていくか、二つのスタンスがありますが、われわれは後者です。自宅の中の製品が全部日立製というのは、あればうれしいですが、考えづらい(笑)すでに「Amazon Echo」との連携も発表していますが、基本的にはオープンにつながる家電を目指します。

―― それは、例えば、Lumadaで収集したデータを他社に提供する可能性もあるということですか。

徳永 十分に考えられると思います。もっとも重要なのは、セキュアな環境を担保しつつ、データを収集し、どのような価値をお客様に還元するか、ということです。ただデータを収集するだけでは意味がありません。お客さまに「つなげたい」と思っていただけるように、そのメリットについて、必死になって考えているところです。

―― 新方針にもとづいた新しいカテゴリの家電の登場もありえますか?

徳永 現時点で具体的なプランをお話することはできませんが、考えていないわけではありません。われわれの役目は「製品の提供」ではなく、「お困りごとの解決」にシフトしてきます。いまの製品群ではどうしても解決できないということになれば、当然選択肢になってくると思います。

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