監督ともざっくばらんに交流

「自分のチームで妹役をやっていたあの女の子がよかったですね。彼女は観ているみなさんには聞こえないボソボソ声で、僕に『なんで喋んないんだよ!?』とか『何、しかとしているんだよ!?』ってずっと言っていて。怖え~と思ったけど、あの子のおかげで、自分の芝居が結構引き出されました(笑)」

最後に、「穴長」の三池監督にそもそも、なぜこの「役者の穴!」をやろうと思ったのか、その目的を改めて聞いてみた。

どこかにもっと野良犬みたいな、自由な奴らがいるんじゃないか?

「大袈裟に言うと、現場に昔はいた個性的な奴らがスタッフも含めて減ってきているというのがあって。役者もみんな上手いんだけど、どうも行儀がよくて、管理されているような気がする。どこかにもっと野良犬みたいな、自由な奴らがいるんじゃないか? それと、例えばいつも行っている煙草屋のおばちゃんが魅力的だと思ったら、その魅力的な被写体にもっと積極的に動けるような体質にしておきたい。それを確認したいというのがそもそもの始まりでしたね」

「穴子」の22名はどこにポイントを置いて選んだのだろう?

 

「僕らは普段からオーディションなどで俳優たちと接しているから、僕らなりのセンサーがあるわけですよ。この人はどこどこのプロダクションに所属しているなとか、新人でまだ仕事をする前の子なんだなというのが匂いで分かるんですが、そういう役者をふだん相手にしている人間から見て、コイツ、ちょっと会ってみたいなと思った人を選びました。でも、その理由が明確な人もいれば、よく分からないし、芝居はヘタそうだけど、面白いかもっていう人もいる。本当にマニュアルのない、身勝手な直観的な選び方ですね」

ただ、「同じ志を持った人たちが集まると競争の場所になることが多いけれど、そうはしたくなかった」という。

「そうではなく、ここをエンタテインメントを目指す仲間たちが共存する場所にしてワイワイ意識を高めていって欲しくて。例えば、さっきの遠藤さんの芝居を見ても、何を感じ、どう思うのかには個人差があると思うんです。しかも、その思ったことを今度は表現者としてどう出すのか? といったときにそれを上手くやれる者とやれない者がいる。それこそボイストレーニングにしても、それが活きる人と活きない人が当然いるわけですよ」

午前中の特別講座で本人が明言しているように、三池監督は、普通のワークショップやお芝居の学校と違い、「役者の穴!」が俳優を育成することに主眼を置いた場所ではないということを言いたいのだろう。

「いちばん大きなポイントは、我々がひとりひとりから受講料をもらってこれをやっているのではないということです。お金をもらってしまうと先生と生徒の関係になって、演劇理論や映画理論を把握したマニュアルに則ったり、それを壊したりしながら、俳優になるための術を教える責任みたいなものが出てきてしまうけど、その責任は負いきれないですからね」

「それに、我々は映画を作るプロではあるけれど、教えるプロではない」と続ける。

「だから今日は発声やアクションのプロの方に来てもらったんです。今日1日だけでは当然そのすべては身につかないけれど、芸能界や映画の世界にはいろんなプロフェッショナルがいるということを肌で感じてもらって、そういったことを面白いと感じられる人たちで“役者フリーク”が作れれば、何か結果が出せるんじゃないか?って思ったんです」

そこには、三池監督が常日頃から思っていることが反映されている。

 

  

「いまの映画界は、ある程度光を放っている人たちをそのまま主役に持ってきて、その役者と彼らのキャラクターに頼りきっているところがあるけれど、それではつまらないなと思っていて。全然知らない人だけど、すごく芝居が上手かったり、その人が現場でえ?って思う事件を起こした方が刺激的ですよね。主演の人にそういう人たちをぶつけた方が彼らも輝くし、主演俳優を活かすのもそうした人たちだと思うから、そういう人材が必要だと確信しているんです」

「まだやり始めたばかりで手さぐり」と三池監督は言うが、いやいや、与えられた状況の中で日本映画のつまらない常識を壊そうとしている鬼才の眼差しの先にははっきりしたものが見えているような気がする。

これは私見だが、三池監督は芝居の上手い下手とか、プロとかアマとか関係なく、自分の映画に登場させたい独自の輝きを放つ規格外の人物を発掘しようとしているに違いない。しかも、芸能事務所が作れるぐらい大量の人材を欲しているはずだ。なぜなら、日本は役者の層が薄いから。主役から脇役に至るまで同じ役者ばかりがキャスティングされているのはそのせいだし、これではほかと違った色の面白い映画は作ることができない。

「三池崇史の役者の穴!」はまさに、それを変えるための布石だ。そして、この記事を見てその存在を知った人にもまだチャンスはある。第2回は三池監督の誕生日でもある8月24日(日)、第3回は10月5日(日)に実施。我こそはと思う男女は、公式サイトから応募フォームを取り寄せてふるって参加して欲しい! そして、日本映画をもっともっと面白くする一員になって欲しい!
 

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。

「ウレぴあ総研」更新情報が受け取れます