エリアフ・インバル (c)Rikimaru Hotta エリアフ・インバル (c)Rikimaru Hotta

2012年秋から今年の3月まで約2年をかけて、マーラーの交響曲9曲を番号順に取り上げ、ほぼ全ての公演がチケット完売となるなど、大反響を呼んだエリアフ・インバル×東京都交響楽団の「新・マーラー・ツィクルス」。その熱狂の記憶も冷めやらぬなか、彼らがマーラー未完の大作、交響曲第10番に挑むコンサート「都響スペシャル」が、7月20日(日)・21日(月・祝)にサントリーホールで開催される。

「都響スペシャル」の公演情報

若き頃よりマーラーにとりわけ強い親近感を抱き、現在ではマーラー演奏の世界的権威となった指揮者インバル。これまで若杉弘、ガリー・ベルティーニらの偉大な指揮者たちとともにマーラー・ツィクルスを展開してきた都響。1991年の初共演以来、長きにわたって絆を深めてきた両者は、マーラーの交響曲を積極的に取り上げてきた。特に2012年秋からの「新・マーラー・ツィクルス」は、いずれも世界水準の演奏と絶賛を博し、日本のマーラー演奏史に新たな金字塔を打ち立てた。

7月に行われる「都響スペシャル」で取り上げるのは、交響曲第10番のデリック・クック補完版だ。1911年の作曲者の病没によって未完のまま遺されたが、20世紀半ば頃に補筆版への取り組みが盛んになった交響曲第10番。その中でも、現在、補筆版のスタンダードとして広く採用されているのが、英国の音楽学者デリック・クックによるものだ。マーラーのスケッチにひたすら忠実でありながら、演奏可能な状態に仕上げられた傑作。若き日にクックが補筆を練り上げる過程で彼と議論を重ねた経験をもつインバルは、その他の様々な補筆稿と比べても「最もマーラーらしく、信頼できる、最上の補完版」だと評する。

マーラーは交響曲の中で、人生の歩み、世界観、別れや死を表現してきたが、第10番はその自叙伝たちの続きだといえるだろう。「マーラーは何回も「別れ」を告げています。『大地の歌』では「永遠に、永遠に」と。第9交響曲で彼は人生に別れを告げ、死を受け入れます。そして10番は、まるで死後の世界から書かれたような、非常に不思議な強い印象を受けます。死後に彼が復活し、人生や死について回想しているかのよう」と語るインバル。ツィクルスの“真の完結”にふさわしい、マーラー最期の深淵に迫る演奏を都響と繰り広げてくれるに違いない。

◆都響スペシャル
【日程・会場】
7月20日(日)・21日(月・祝) 14:00開演 サントリーホール 大ホール (東京都)
【出演】
指揮:エリアフ・インバル
演奏:東京都交響楽団
【曲目】
マーラー:交響曲 第10番 嬰へ長調-クック補完版