『オール・ユー・ニード・イズ・キル』 (C)2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED

“ゲーム感覚の映画”という表現は、主人公があるステージをクリアして次のステージ、さらに次のステージへと進むストーリー展開の作品を差すケースが多い。それとは違う意味で、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』はゲーム感覚を味わうことができる。それはとても新鮮、なおかつワクワクワする感覚で、見ていて嬉しくなってしまった。

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舞台は、異星からの侵略者を相手に人類が抵抗を繰り広げている近未来世界。トム・クルーズふんする主人公ウィリアム・ケイジ少佐は、ある朝、基地で目覚め、戦って、そして戦死するのだが、再び目を覚ますと基地の朝に戻っていた。この“目覚め→戦い→戦死”という無限のループを、どういうわけか彼は繰り返すことになる。面白いのは、ループしてきた出来事の記憶がケイジに残っていること。つまり立ち回り次第で同じ轍を踏むことなく、前回の死の先へ歩を進めることができる、というワケだ。ループの度に知識を吸収し、体力や戦闘能力に磨きをかける。そう、ゲームオーバーとなってはリセットして、前回のロールプレイングの内容を次に活かすゲームのプレーヤーと同じような感覚。やり直す度に経験値が上がる、そんなシチュエーションを体感できるという点が、とてもゲーム的だ。

原作は桜坂洋による和製ライトノベルだが、ラノベは元々ゲーム化しやすいメディアなので、本作がそのようなテイストを含んでいるのも必然的。今回の映画化では、ユニークな改変が行なわれている点に注目したい。原作の主人公は訓練を受けた若い兵士だが、映画では戦闘経験のないエグゼクティブに変えているのだ。ケイジは少佐の階級を持っているものの広報担当のいわばキャリア組で、戦争という“現場”を知らず、血を見ただけで倒れると言うほどの軟弱者。そんな主人公だからこそスキルアップの過程にドラマが宿るし、観客の共感を引き寄せるうえでも効果を発揮。そもそもトム・クルーズがヘタレ兵士として登場することに意外性があり、そこに興味を引かれる方も多いはず。観客がシンクロしやすい主人公の設定も、じつにゲーム的。画期的なエンタメ映画として、ぜひぜひ注目して欲しい。

『オール・ユー・ニード・イズ・キル』 
公開中

文:相馬学