ミュージカル『天才執事 ジーヴス』 ミュージカル『天才執事 ジーヴス』

1975年に英国のベストセラー小説を元に舞台化、2001年にはブロードウェイでも上演されるなど、今も高い人気を誇るミュージカル『天才執事 ジーヴス』。青年貴族バーティ・ウースターと忠実な執事ジーヴスの名コンビが、2人を取り巻くいっぷう変わった仲間たちとてんやわんやを繰り広げるコメディだ。日本初演となる今回は、共にミュージカル初挑戦となるウエンツ瑛士と里見浩太朗に加え、高橋愛、なだぎ武、右近健一、エハラマサヒロ、入来茉里、つぶやきシロー、そして樹里咲穂やモト冬樹というバラエティ豊かなキャスティング。7月4日、その舞台がついに初日を迎えた。

ミュージカル『天才執事ジーヴス』チケット情報

20世紀初頭のロンドン。教会のホールでバンジョーの演奏会を始めようとしたバーティ(ウエンツ)だが、いつのまにか楽器が消えてしまったために、執事ジーヴス(里見)の提案で即興劇を始める。ジーヴスの脚本・演出で進む芝居は、バーティの元婚約者オノリア(樹里)やカタブツ裁判官のバセット(モト)、その娘で“不思議ちゃん”のマデリン(入来)、同じく姪で小悪魔系女子のスティッフィー(高橋)、破壊癖のある牧師ハロルド(右近)らを巻き込み、現実と劇中劇とが奇妙に交差してゆく。

ウエンツは撫でつけたクラシカルな髪型や黒タキシード、白マフラーなどもピタリとハマっている。初日は少々の硬さもあったが、全力で初ミュージカルに挑む姿が印象的だ。特に歌とセリフは予想以上の完成度で、持ち前の声の良さも手伝い、新たなミュージカル俳優の誕生を感じさせた。対する里見も、燕尾服とステッキを持ち歩く姿はそのまま誠実さあふれる執事のそれ。ウエンツとの歌の場面では、美声と軽やかなステップも披露。バーティを見つめる眼差しの温かさで、里見らしいジーヴス像を表現した。

楽曲はキャッチーで耳馴染みのいいメロディばかりだが、1970年代に初演された作品だけにシンプルでもある。その分、歌や芝居のリズムが少しでも乱れれば、本作のもつ懐かしい“ミュージカルらしさ”が消えてしまう可能性も。高橋や樹里、モトら舞台経験の豊富なキャスト陣が頼もしく支える一方で、嬉しい誤算だったのが、なだぎ武(米国人の御曹司サイラス)、エハラマサヒロ(オノリアに恋するビンゴ)、つぶやきシロー(マデリンの恋人ガッシー)のお笑い芸人勢だ。3人ともミュージカル経験があるとはいえ、実に達者な歌声と絶妙な芝居の“間”で舞台を盛り上げる。フィナーレにはキャスト勢ぞろいで劇中曲のリプライズもあり。丁寧に作られた、古き良きミュージカルの趣き漂う1本である。

舞台は7月13日(日)まで東京・日生劇場にて。チケット発売中。なおチケットぴあでは、水戸黄門印籠シールがついた当日引換券も販売中。

取材・文:佐藤さくら