多くのパソコン専門店や自作パソコン用パーツショップが密集して、激しい競争を繰り広げている東京・秋葉原電気街。店舗の統廃合が続くこの街で、1995年のオープン以来、20年近くもその地に根づいているのが、ZOA秋葉原本店だ。最近は、近隣のショップとの競争を勝ち抜くために、他店で獲得し切れていない顧客、すなわち初心者層の獲得にまい進。通販サイトで広告を展開して、パソコンに詳しくない層の来店を促し、成果を上げている。(取材・文/佐相彰彦)

ZOA秋葉原本店

店舗データ

住所 東京都千代田区外神田3-8-1 YSビル

オープン日 1995年11月1日

売り場面積 約105m2

従業員数 約10人

●電気街にオフィス街の要素が定着 統廃合に反して20年近くも出店

2005年の秋葉原ダイビル、2006年の秋葉原UDXのオープンによって、2棟一対の「秋葉原クロスフィールド」が誕生し、それまで単なる電気街の入り口だった秋葉原駅周辺は、IT産業の集積地に生まれ変わった。それから約8年の月日が経過し、今では秋葉原クロスフィールドに多くのIT企業が入り、イベントスペースではIT関連のイベントが開催されている。秋葉原は、IT関連のオフィス街の顔ももつようになったのだ。

街が活性化したことで、パソコン市場の成熟とともに衰退しつつあった電気街は再び賑わいを取り戻し、パソコン専門店やパーツショップも息をついた。しかし、店舗の密集による電気街特有の激しい価格競争に加えて、売り場面積が2万m2を超える大型店舗のヨドバシカメラマルチメディアAkibaが駅前にできたことなどから、生き残りが厳しくなったパソコン専門店やパーツショップが相次ぎ、店舗の統廃合が続いた。

こうした状況のなかで、固定客をしっかり確保しながら、近年は新たな客層を開拓しつつあるのが、ZOAが1995年に出店したパソコン専門店のZOA秋葉原本店だ。激しい競争を、パソコンという枠にとらわれないさまざまな商品を取り扱うことによって勝ち残ってきた。杉本秀樹店長は、「当社には、いつもお客様にわくわくしていただけるよう、店舗ごとに商品を仕入れることができる仕組みがあり、他社に比べると小回りが利く。何もしないでパーツだけを取り扱っていたのでは、変わりばえのしない地味な店舗になってしまう」と、勝ち残りの要因を語る。杉本氏は、3年ほど前に秋葉原本店の店長に就任。電気街で他店の統廃合を目の当たりにして、店舗の抜本的な改革に踏み切った。

●WiMAXでスマートフォンユーザーを確保 「e-zoa.com」と連携強化を進める

ZOA秋葉原本店はパソコン専門店。しかし、杉本店長が赴任して最初に考えたことは、「どうしたらパソコンに詳しくない方をお客様にできるか」ということだった。新たな客層を開拓しないことには、競争の激しい電気街で生き残っていくことはできない。

まず、スマートフォン需要の増大に目をつけて、モバイルWiMAXの取次業務を開始した。単に取り扱うだけではない。ライバルたちが「2年契約でパソコンが2万円引き」などのサービスを提供しているなかで、ZOA秋葉原本店は「1年契約で店内の商品を2万円引き」にした。杉本店長によれば、「2年契約だと『長い』と契約をためらうお客様がいるが、1年なら『とりあえず使ってみようか』という気持ちになる」という。また、年末年始やゴールデンウィークなどの連休には、「1年契約で3万円引き」などのキャンペーンも実施。契約したお客様からお得情報がクチコミで広がって、1か月の平均契約数が100件、多いときには150件にも達したという。こうしたサービスを提供できるのは、親会社のダイワボウ情報システムがMVNO(仮想移動体通信事業者)としてモバイルWiMAXの通信事業を手がけていることが関係している。

また、ハイブリッドカーの普及に伴って、カーバッテリ需要が出てきているという情報に接したことから、パナソニックの自動車用バッテリ「caos(カオス)」の販売を開始。「取扱いを始めたとたん、問い合わせが殺到した。今ではパソコンに次ぐ売れ筋商品になっている」という。

モバイルWiMAXもカーバッテリも、来店客との会話や問い合わせの電話で出てくるのは、「インターネットで見た」という言葉。そこで、自社の通販サイト「e-zoa.com」との連携を強化して、サイト上でZOA秋葉原本店の在庫情報を商品ごとに閲覧できるようにした。もちろん、店頭でもサイトと同じ価格で購入できる。これによって、「サイトで閲覧して、店頭で商品を実際に触ってみて購入するというお客様が増えた」という。一方、パソコンに関しては、サイトでスペックと価格だけを把握して購入するお客様が多く、とくに組み立てて展示する必要がない。ショーケースに箱を並べるだけなので、「狭い売り場でも販売できる」という。

ZOAの主力商品の一つであるバイク関連用品は、昨年8月末に取扱いを中止した。「電気街にはあまりバイクユーザーが来ないことがわかった」(杉本店長)からだ。売れる商品を取り扱い、その地域では不採算になる商品の販売を停止したことで、新たな客層の開拓に成功したZOA秋葉原本店。杉本店長は、「店長に就任してから、3年間で売り上げが1.5倍になった」と自信をみせる。

●店長が語る人気の理由――杉本秀樹 店長

仙台や大阪、富山、山梨、静岡と、さまざまな地域を経験して、秋葉原電気街に異動。「電気街に来る前は、すべて郊外店。赴任した当初は、パソコンのヘビーユーザーが多いなど、客層の違いにとまどった」という。いまでは、固定客であるヘビーユーザーとも気軽に会話できる仲になっている。

しかし、「固定客だけでは、電気街で生き残っていけない」と、冷静に判断。秋葉原駅前の再開発によって、パソコンに詳しくない人も電気街に流れている状況をみて、新たな客層の開拓に踏み切った。街や市場の環境をいち早くつかみ、小回りの利いた販売スタイルで売上増を続けている。

※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2014年7月14日付 vol.1538より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは