「600」という珍しい社名のベンチャー企業。2017年6月の設立。オフィス内で導入企業のスタッフなどが食品や日用品を購入できる「無人コンビニ」を提供することで注目を集めている。創業者の久保渓代表取締役は、モバイル送金・決済のプラットフォーム「WebPay」を展開するウェブペイ・ホールディングスを立ち上げた起業家。そのウェブペイ・ホールディングスをLINEに売却したことでも知られている。レジの無人化システムや、最近では店員なしの無人店舗「Amazon Go」が話題になっているなか、600のビジネスモデルはどのようなものなのだろうか。(BCN・佐相彰彦)

「休憩時間が移動に費やされる」を打破、カスタマの効率化と生産性向上へ

――「無人コンビニ」を開発したきっかけは。

二つあります。前職のオフィスが高層ビルだったんですが、昼休みの時、エレベータがものすごく混むんです。降りるだけで10~15分かかってしまう。また、コンビニで買い物をしてレジで精算するのにも10分ぐらいかかる。そして、またオフィスに戻るときに時間がかかる。結果、40~45分を移動に費やしているんです。これでは、効率的ではないし、せかせか食べなくてはならなくて休めないし、生産性が上がらない。「オフィスで昼ご飯が購入できればいいのにな~」と思ったんです。

――もう一つは何ですか。

昨年、娘が生まれたんですが、妻が妊婦だった時、リンゴやパイナップルなど「果物が食べたい」というので、近くのコンビニまで買いに行っていたのですが、時々品切れで、結局、遠くのスーパーまで行かなくてはならなかった。遠くまで行くと時間はかかるし、妻が心配ですし。「自分の住んでいるマンションに自分が買いたい商品を絶対に切らさないコンビニがあればな~」と考えたんです。都市部では、私のように考えている方が多いのではないでしょうか。時間が短縮できて、確実に欲しい商品が買える。そのようなものはないかと考えた末、「1分で何でもできる」という当社が掲げるビジョンを踏まえて無人コンビニが生まれたんです。

――設立からこれまで、どのようなことに取り組んできたのですか。

昨年末までは開発に費やし、それから今年初めにかけて、無人コンビニを試験的に置いていただける企業(カスタマ)が出てきました。インターネット関連や金融関連のビジネスを手がけるベンチャー企業を中心に、活用いただいています。カスタマは増えている状況にあります。

――無人コンビニの強みを教えてください。

物流や商品の仕入れなど、基本的に自社で行っておりますので、欲しい時に欲しい商品を提供できるというのが無人コンビニの特徴です。また、クレジットカード決済に対応していますので、カスタマの社員(ユーザー)が現金を必要としませんし、カスタマが出納管理に悩むこともありません。これがメリットです。あと、当社でとくに力を入れているのが商品の補充です。置く場所や向きなどによって、どのように商品が売れるのかをデータ化しています。さらに、商品を補充しにいけば、カスタマやユーザーの話が聞けます。その際に使い勝手などのフィードバックをデータ化し分析する。リアルタイムで何が売れて、カスタマやユーザーが何を求めているのかというデータでもっていることが強みと捉えています。

――カスタマからは、どのような声があがっていますか。

「社員から便利になったと好評」とおっしゃってくださるカスタマが多いのが事実です。オフィスからコンビニが遠かったり、エレベータで1階まで下りるのに時間がかかるなど、やはり、みんなが気にしていたのでしょうね。時間を効率的に使えると評価をいただいています。また、システム関連部門のエンジニアが無人コンビニに興味をもって、総務関連部門と話したり、置いて欲しい商品の要望を総務関連部門が他部門から聞いたり、無人コンビニで商品をとったユーザー同士が会話したりと、社内のコミュニケーションハブになっているとの声も聞きます。無人コンビニの設置場所は、リフレッシュスペースなどの休憩場所とか、なかにはオフィスのど真ん中に設置しているケースもあります。昼食などを買う時間が短縮されたことによる効率化、コミュニケーションの活発化による生産性向上につながっているようです。

――収益源は、初期費用25万円、月額5万円、あとは商品の売り上げです。採算は合うのですか。

まだ試験的に置いてくださっているカスタマがほとんどですので、大きな収益が出ているかといえば、じつのところ現段階では正直、赤字です。実は初期費用をいただかないことにしたんです。まずは、カスタマやユーザーが喜ぶサービスに一段と進化を遂げていくことに重きを置いています。喜んでもらえば、必ず収益につながる。今は黒字ではありませんが、売り上げはしっかりと立っていますので、早めに黒字化を達成する見込みです。

既存コンビニやAmazon Goとは異なる

――コンビニ業界は味を追求していますよね。そこでの差異化は。

無人コンビニで扱う商品は、総合卸事業者やメーカーと契約して仕入れています。お弁当や総菜などは、保健所の許可が下りた場所には置くようにしていて、加えて基本的にはチルド弁当を採用しています。また、カップ麺などの消費期限が長い商品を用意しています。現在、600種類を取り扱っているのですが、要望に応えるという点では、もちろん商品を充実させていきますし、お弁当や総菜の味も追求していくことは検討します。ただ、無人コンビニは効率化や生産性向上が主な目的です。そういった点では、既存コンビニとは一線を画したものとご理解ください。

――Amazon Goとも異なったビジネスモデルですね。

当然です。あくまで、「1分で何でもできる」をコンセプトに据えていますので、店員がいない実店舗とは目指す方向が違うと考えています。カスタマの環境が変わるというのが目的なんです。

――商品の購入データを活用してカスタマの効率化や生産性の向上につなげるとなると、社内改善のコンサルティングやツールの提供など、製品・サービスのラインアップを増やしていくのですか。

将来的には、新しい製品やサービスが生まれる可能性はありますが、当面は無人コンビニをベースにビジネスの幅を広げようと考えています。例えば、オフィスだけでなくマンションや駅ナカに設置して、どのようなユーザーがいつ買うのかを分析したり、無人コンビニにメーカーが新しい商品を試験的に置いたらどのような反応を示すかをデータ化すればマーケティング調査の一つにもなると捉えています。現状は、一般オフィスがカスタマですが、将来的には建設関連のデベロッパーやメーカーがカスタマになるということも考えられます。