一部の家電量販店や大手チェーン店は、「格安スマートフォン」として、「格安SIM」と呼ばれるMVNO(仮想移動体通信事業者)が提供する通信サービス(MVNOサービス)とSIMロックフリーの端末をセットで販売している。今年春以降、参入企業が増え、メディアに頻繁に取り上げられるようになった。今回は、にわかに注目を集める「格安スマートフォン」「格安SIM」の説明とともに、「格安SIM」が使えるSIMロックフリーのスマートフォン・タブレット端末のランキングを紹介しよう。まだ製品数は少なく、ニッチなカテゴリだが、タブレット端末では、2013年発売の「Nexus 7」のWi-Fi+LTE通信モデルが人気を集めている。

●そもそも「格安SIM」って何? メリットは?

「格安SIM」は、ここ1~2年、MVNOサービスの代名詞として使われるようになった言葉だ。商品としては小型の通信用カード「SIMカード」を指し、利用する端末に合わせてタイプ(データ通信専用/音声通話つき)とサイズ(標準SIM/micro-SIM/nano-SIM)を選ぶ。月額課金ではなく、有効期間内ならいつでも使える前払い方式のプリペイドSIMもある。

MVNOは、NTTドコモなど、自社で回線を保有して通信サービスを提供するMNO(移動体通信事業者)から回線を借り受け、特定の通信事業者以外では使えないようにする「SIMロック」がかかっていないSIMロックフリーの端末(SIMフリー端末)向けに通信サービスを提供している。ビックカメラの「BIC SIM」ように、他社が提供するMVNOサービスと独自の特典を組み合わせて、オリジナルSIMとして自社ブランドで提供する場合もあって、MVNOサービスの選択肢は多い。今年7月には、総務省が「SIMロック解除の義務化」の方針を打ち出したことから、今後、ますます注目されるとみられている。

「格安スマートフォン」は、音声通話つきSIMカードと安価なSIMフリーのAndroid搭載スマートフォンをセットで販売するもので、サービス自体は「格安SIM」と同じ。以前から提供していたMVNO事業者に加え、エディオン、ノジマ、ビックカメラなどの家電量販店、大手スーパーのイオンなど、流通系を中心にさまざまな企業が販売に乗り出し、「格安SIM」への注目度を高めるきっかけになった。セット販売なので端末や回線の自由度は低いが、手軽でわかりやすい。

●月額料金は容量1GBで1000円程度から 主要キャリアに比べ断然安い

MNOが提供するフルサービスは、スマートフォンの場合、基本使用料(音声通話プラン)とデータ通信の定額料を合わせた通信料金だけで月額7000円程度かかる。契約期間は2年間で、更新月以外に解約する場合は、1万円近い解除料が必要だ。

対して「格安SIM」は、1日や1か月など、指定の期間に使えるデータ容量が少なく、その上限を超えると通信速度が制限される代わりに、データ通信専用SIMで月額1000円程度、音声通話つきSIMでも月額2000円程度から利用できる。音声通話なしで、250kbpsや500kbpsなどの超低速でよければ、税別月額500円以下のサービスもある。単純に金額だけを比較すると、MNOが提供するフルサービスに比べて圧倒的に安く、リーズナブルだ。

とはいえ、音声通話つきSIMは、データ通信専用SIMほどの割安感はない。さらに、MNP(携帯電話番号ポータビリティ)に対応しなかったり、ユーザー認証などに利用するSMSは有料オプションだったりする場合がある、留守番電話などの通話オプションは利用不可または有料オプション、キャリアメールは提供されないといった制約・注意点がある。安さには、それなりの理由があるのだ。また、音声通話の料金体系は従来と同じなので、無料通話アプリ・格安通話アプリなどを利用しないと、音声通話代は安くならない。

●ハードルの高いSIMロックフリー端末の入手 事前の下調べは必須

「格安SIM」を使うためには、まず、SIMフリー端末を用意しなければならない。最初からSIMフリー仕様の製品は少なく、有料でSIMロックを解除できるドコモ端末(iPhone/iPadを除く)などを用意するという選択肢もある。新品・中古とも、入手のハードルは高い。しかも、端末によっては、「格安SIM」だと、モバイルWi-Fiルータ代わりに使えるテザリングや、おサイフケータイなど、一部の機能・サービスが使えないので注意しよう。

家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」によると、2014年1月1日から7月20日に販売されたSIMフリーのスマートフォンは25製品。1位は「FleaPhone CP-F03a」、2位はSIMフリー版「Nexus 5」の32GBモデルで、4位には6月27日発売の注目機種「Ascend G6」が入った。

SIMフリーのタブレット端末はもっと少なく、わずか15製品だった。1位は、ASUSの「Nexus 7(2013) Wi-Fi+LTE通信モデル」の32GBモデルで、他を大きく引き離し、シェアは65.3%に達した。Wi-Fiモデルほどではないが、隠れたヒットといっていいだろう。

同期間のスマートフォンの総販売台数に占める「SIMフリー」の割合は、わずか1.4%。タブレット端末でも、SIMカードスロットを備えた通信機能つきモデルの総販売台数の32.4%にとどまった。ただ、主要3キャリアそれぞれよりも、SIMフリーモデルの合計のほうが販売台数は多い。

スマートフォン、タブレット端末とも、前年に比べてSIMフリーモデルの販売台数は増え、以前はほとんど売れていなかったスマートフォンは、前年同期比497.1%と、驚異的な伸び率を示している。製品数や取扱い店舗が増えれば、もっと伸びそうだ。

アップルは、現在、直営店のApple Online StoreとApple Store限定で、SIMロックフリー版のiPhoneとiPadのWi-Fi + Cellularモデルを販売している。ただし、本体価格はキャリア版の実質負担額より高く、総務省が示した「SIMロック解除義務化」によって本体価格が高騰する可能性の根拠とされている。

●最大のメリットは「安さ」ではなく、「自由度」と「多様性」

「格安SIM」の最大のメリットは、「安さ」ではなく、料金やサービス内容を自由に選んで、手持ちの端末と組み合わせて利用できる「自由度」や、サービス・料金プランの「多様性」にある。適切なプランを選び、賢く使えば通信料金を抑えることができる反面、音声通話やデータ通信量を節約するテクニックを知らないと、かえって通信料金が高くつく可能性があるので、ていねいなサポートや使い放題の高速通信を求める人には不向きだ。iPhone/iPadのSIMフリー版のように、端末代はむしろ高額になる場合もある。いくら割安とはいえ、自分のニーズにマッチするか、事前にしっかりと調べる必要がある。(BCN・嵯峨野 芙美)

*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベース(パソコンの場合)で、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。