増上寺を訪れたライアン・レイノルズ

 マーベル史上、最も過激かつ下品なヒーローとして人気を博すデッドプールの活躍を描く最新作『デッドプール2』。6月1日の公開を前に主演のライアン・レイノルズが来日し、「ドキドキTOKYOバスツアー」が行われた。六本木、渋谷のスクランブル交差点、増上寺を巡る中、ライアンがインタビューに応じ、映画に対する思いを語った。

-デッドプールというキャラクターについてどのように考えていますか。

 デッドプールは、コミックの世界の中でもとてもユニークな存在です。彼は他のスーパーヒーローが言えないことを言えたり、やれないことができるという特権を持っています。ダーティーなところもあるし、道徳的にも曖昧です。だからこそ観客の共感を呼ぶのだと思います。彼はキャプテン・アメリカやスーパーマンのようではなく、“昨日よりはまだまし”というタイプのヒーローです。

-デッドプールを演じるにあたって影響された人はいますか。

 コメディーということで言えば、一番影響を与えてくれたのは父です。僕は4人兄弟の末っ子だったのですが、何かつらいことがあったときや、いじめられたときには、防衛手段としてユーモアで切り抜けていました。そういう意味では、デッドプールにも通じるところがあると思います。父はとてもユーモアが好きでした。父を通して、バスター・キートンやハロルド・ロイド、マルセル・マルソー、ジャック・ベニーたちのコメディーをよく見ていました。少し後になると、不謹慎な笑いを得意とするビル・マーレイやチェビー・チェイス、エディ・マーフィたちのまねをしました。自分のスタイルを確立できたのは35歳ぐらいからです(笑)。

-普段、心掛けていることはありますか。

 撮影に入る前はハードなトレーニングをします。特にデッドプールの場合は、毎日2時間はワークアウトをして、食事にも気を使います。こういう役は大きく見せなければならないので、筋肉を付けて体重を増やしたりもします。25歳の頃は、コンクリートの上で転んでも、ユーモアとして笑えましたが、41歳になって、コンクリートの上で転んだら痛いですし、けがもします(笑)。それは恐ろしいことなので、十分にトレーニングをして、撮影に支障がないようにする、ということは心掛けています。

-デッドプールに自分自身のことを反映させている部分が多々あるように見えますが…。

 僕は自分をネタにするのがとても好きなんです。自分を笑えないと詰まらないと思うし、それがまさにデッドプールの精神だと思います。僕とデッドプールは、境界線が分からないぐらいかぶっています。ただ、やり過ぎるとストーリーに集中できなくなるので(笑)、そこは気を付けています。

-ご自身が考えたアイデア、せりふなどで特に気に入っているものは?

 デッドプールの足が赤ちゃんの足になるシーンは、全て自分が書いたのでお気に入りのシークエンスです。後は、いろいろなポップカルチャーのことを入れ込んでいるところも好きです。脚本は僕も含めて3人で書いているのですが、けんかをすることもなく、互いにアイデアを出し合って、楽しみながらやっています。

-では、あなたが考えるヒーロー像とは?

 ヒーローの条件とは、小さなことでもいいのですが、自分の居心地のいいところから一歩踏み出して何かをする人のことだと思います。また、ヒーローは成長していきます。今回のデッドプールは無私無欲です。その意味では、自分のことではなく、他人のために何かをすることができる人がヒーローだと思います。例えば、自分のことは抑えて、妻と一緒にメットガラ(世界最大規模のファッションの祭典)に行くときの僕はヒーローです(笑)。僕にとってのヒーローは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマイケル・J・フォックスです。

-前作のワム!の「ケアレス・ウィスパー」に続いて、今回はa-haの「テイク・オン・ミー」がテーマ曲的に使われていました。これはご自身の選曲ですか。

 脚本の中に曲を指定して書き込んでいるときもありますが、「テイク・オン・ミー」の場合は脚本には書いてなくて、たまたまMTVで聴いたときに耳に残って、「これだ!」となりました。その後、他にも80年代の曲で何かいいものがあるかもしれないと、スタッフと随分話し合いましたが、結局「テイク・オン・ミー」を超えるものはありませんでした。最初に脚本に書いてあった曲は…、えーと、アウトフィールドの「ユア・ラブ」でした。思い出せてよかった。僕の脳は優秀です(笑)。

-前作が大ヒットしたので、今回は話を大きくすることもできたと思いますが…。

 地球や宇宙を救うというのは、デッドプールには全くふさわしくありません。それは他のヒーローがやってくれるので(笑)、彼らに任せるということです。例えば、今回の冒頭に出てくるデッドプールが世界の各地で戦うシーンは、最初は、同じ街にあるリトルイタリーとか、リトルトーキョーで戦っているという設定だったのですが、採用されませんでした。デッドプールは、そのキャラクター自体がスペクタクルなんです。爆発する街や、星を救うという種類のものではないので、予算も他のヒーロー物に比べれば少なくて済みます。ひたすら”赤いくそ野郎”の活躍を見るための映画なのです(笑)。

-黒澤明監督の“ある作品”が、次のデッドプールのアイデアのヒントになったとお聞きしました。次回作を日本で撮影する可能性はありますか。

 ぜひやりたいです。親友のヒュー・ジャックマンから日本で撮影したときのいい話をたくさん聞いていますから。ただ、僕はカナダのバンクーバー出身なので、そこでの撮影がとても好きですし、雇用の面でもいい効果があります。また、デッドプールはルールを破る男ですが、刀の差し方が変なので、日本で受け入れてもらえるかもちょっと心配です(笑)。

(取材・文・写真/田中雄二)