【日高彰の業界を斬る・15】「理解しているのは13%」。5月中旬、4K放送に関して衝撃的な調査結果が発表された。今年12月1日、BS・110度CSで一般家庭向けの4K放送が開始されるが、これを視聴するためには現在販売されている4Kテレビに加えて、別途専用のチューナーが必要となる。このことを今年2月時点で理解していたのは、全国の消費者(20歳~69歳の男女5000人に調査)のうちわずか13%だったという。 調査を実施したのは、4K/8K放送などの普及を推進する放送サービス高度化推進協会(A-PAB)。A-PABでは、過去にも同じ調査を行っており、2016年9月時点の理解度が5.4%、17年7月時点での理解度が11.3%だった。少しずつ認知が広がっているものの、本放送が始まる年になってもまだ1割強というのは心もとない。

あらためて説明するまでもないかもしれないが、現在市販されている4Kテレビは4K解像度の表示パネルを採用しているものの、4Kの放送波を受信するためのチューナーは非搭載。ネットの4Kコンテンツや、外部チューナーで受信した4K放送を表示することができるが、単体では12月に始まる4K放送を見ることができない。先日、中国ハイセンス傘下となった東芝映像ソリューションが、国内初の4Kチューナー内蔵テレビ(これも4K放送の視聴するため、10月以降に提供されるチップが必要)を今月発売するが、他社は当面4Kチューナー非搭載機の販売を継続する。

4Kテレビの「買い控え」は起きていないが……

総務省は16年6月、「現在市販されている4Kテレビ・4K対応テレビによるBS等4K・8K放送の視聴に関するお知らせ」の表題で報道発表を行い、4K放送の視聴に別途チューナーが必要となることの注意喚起を行った。また、A-PABも昨年、家電量販店が加盟する大手家電流通協会、地域電器店の業界組織である全国電機商業組合連合会との間で、4K放送の視聴環境について消費者に周知していく方針で合意している。

しかし、実際には先の年末年始商戦を含め、4Kテレビの売り場で積極的な情報提供が行われているとは言いがたい。もちろん、顧客の側から「これで4K放送は見られるのか」と聞けば正確な情報を教えてくれるし、4Kテレビだけで4K放送が見られると誤解していないか、商品説明時に確認してくれる販売員もいる。ただ、売り場のPOPなどで「4Kチューナーを追加して初めて4K放送が視聴できる」と表示されているケースは非常に少ない。

販売側としては、4Kチューナー内蔵製品が出揃うまで、テレビが買い控えられることを防ぎたいと考えるのが当然だ。家電量販店の業績をみると、各社とも目下4Kテレビが好調で、少なくとも買い控えの現象は起きていないようだ。

各社の幹部に聞くと、「動画配信サービスが普及し、放送を待たずとも4Kコンテンツは手軽に楽しめる」「地デジ導入期のテレビが寿命で買い替えサイクルに入っている。テレビが故障したままという家庭は考えられない」と話し、4Kチューナー内蔵でなくても4Kテレビには十分な商品力があるとの見方を示す。しかし、「これを買うだけで東京五輪も4Kで見られる」といった消費者の誤解に、4Kテレビの販売が支えられている可能性はないだろうか。

業界関係者に向けて野田大臣が「周知」を直接要請

4K放送の視聴に関して、正しい理解が進んでいないことに気をもんでいるのが、ほかでもない野田聖子総務大臣だ。

6月1日、A-PABが開催した「新4K8K衛星放送開始半年前セレモニー」の最初に登壇した野田大臣は、「4K8K放送の魅力や視聴方法など、国民・視聴者に知っていただきたい事項について、ご存じでない方が多数いることも事実」と前置きしてから、業界関係者に向けて次のように要請した。

「すでに市販されている4Kテレビだけでは新4K8K衛星放送を視聴することができず、対応チューナーや、場合によってはアンテナの交換などが必要となる。放送開始に向けて、国民・視聴者に混乱が生じないよう、番組、製品カタログ、店頭など、あらゆる手段を活用したていねいな説明と周知徹底をお願いする」。「番組、製品カタログ、店頭」という表現からは、セレモニーに集まった放送事業者、機器メーカー、販売店のすべてが当事者意識をもち、当面の利害を抜きにして周知に取り組んでほしいという意図が感じられる。

動画配信サービスが普及し、4K放送の重要度が相対的にいくらか低下したのは確かかもしれない。しかし、12月1日の放送開始日に初めて、自宅の4Kテレビで4K放送が見られないことを知る消費者が少なからずいるとしたら、放送とメディアやテレビという商品自体への信頼を大きく毀損することになるだろう。店頭を含めた積極的な情報提供が求められるのではないか。(BCN・日高 彰)

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