舞台 『朝日のような夕日をつれて2014』 より 舞台 『朝日のような夕日をつれて2014』 より

劇団「第三舞台」(12年解散)の代表作が17年ぶりに上演。『朝日のような夕日をつれて2014』(作・演出:鴻上尚史)が7月31日、東京・紀伊國屋ホールで開幕した。

『朝日のような夕日をつれて2014』 チケット情報

初演は1981年。大高洋夫、小須田康人ら男優5人が代替わりしながら再演を重ね、『朝日~』は鴻上および第三舞台の代表作となった。今回は藤井隆、伊礼彼方、玉置玲央と、出自の異なる顔ぶれが結集。そこに大高・小須田が名を連ね、どんな和音を成すのか皆目見当がつかないまま、幕は上がる。

暗闇の中、かすかに聞こえてくる男たちの群唱に、観客の全神経が集中する。やがて光の中に浮かび上がるスーツ姿の5人衆。新商品開発に躍起になるおもちゃメーカー「立花トーイ」の世界と、サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』を思わせる世界とが入り乱れるのが本作の劇構造だ。何かを「待つ」時間――すなわち人生――を、いかに「遊ぶ」か。実在するおもちゃのパロディが続々とスクリーンに投映されるたび、爆笑が起こる。

17年ぶりであることや、オーバー50であることなどはさておき、大高・小須田の軽妙な掛け合いが飛び交う。新加入組も全力疾走である。藤井と伊礼は「研究員」と「マーケッター」として、あるいはふたりの「ゴドー」として、大暴れ大舌戦を繰り広げる。『朝日~』の魅力のひとつはここにある。戯曲の理解度や演技力うんぬんを超え、役者たちが何らかの条件反射に突き動かされるようにして、汗だくで転げまわる姿を愛でるのが本作の真髄。『朝日~』の客席に座るということは、「観る」というより「浴びる」に近い。

何かにつけて上記4名の仲間に入ろうと奮闘する「少年」を演じる玉置は、若さと安定感の両刀使いで観客を魅了。伊礼もミュージカルの大舞台で磨き上げてきた美声を大いに披露して喝采を浴びる。第三舞台とはまるで違う道筋から躍り出た若手2名、そして力まず実直にシーンを重ねていくベテラン勢2名。しかし「世代交代」感にも「旧態依然」感にも偏らないギリギリの平均台を渡りきれていたのは、おそらく藤井隆の存在によるものだ。これまで出演してきた吉本新喜劇や野田秀樹作品とは勝手が違うステージで、素直に緊張をのぞかせながら、極限状態にある俳優にしか放つことのできない光をきらめかせる。

それぞれが歩いてきた道が、それぞれの形で結実した舞台。にぎやかな祝祭感や疾走感が全編を貫く『朝日~』において、胸に残ったのは5つの静かな「頼もしさ」だった。

8月24日(日)まで紀伊國屋ホール、8月29日(金)から8月31日(日)まで大阪・森ノ宮ピロティホール、9月5日(金)から9月7日(日)まで福岡・西鉄ホール。東京公演については当日引換券も販売中。また、9月12日(金)から9月13日(土)まで、東京・サンシャイン劇場での凱旋公演も決定した。

取材・文:小川志津子