記憶の不確かさを問う傑作戯曲に、長塚圭史が挑む

2014.8.7 16:40配信
長塚圭史  撮影:源 賀津己 長塚圭史  撮影:源 賀津己

長塚圭史によるプロジェクト「葛河思潮社」の公演が、9月10日(水)から神奈川芸術劇場で始まる。旗揚げ4年目となる今回は、ハロルド・ピンターの『背信』を上演。

葛河思潮社『背信』チケット情報

ピンターといえば、2005年にノーベル文学賞を受賞したイギリスを代表する劇作家だ。その傑作戯曲と名高い『背信』に、もはや葛河思潮社の常連とも言うべき松雪泰子、田中哲司とともに挑むというのだから、いやがおうにも期待は高まる。一体、どんな舞台になるのだろうか? 長塚圭史に話を聞いた。

「この『背信』は、男女の三角関係を描いたどこにでもありそうな不倫劇という形を取りながら、冒頭から結末に向かって時間が逆行していくという奇妙な構造を持つ芝居です。冒頭でひと組の不倫カップルが登場し、時間がさかのぼっていくにつれてふたりの過去や周囲の人間関係が明らかになっていきます。それを追いかけてくことに一種のサスペンス劇のようなおもしろさはあると思うのですが、この作品の魅力は別にあります。記憶や時間のねじれによって浮かび上がってくる、不確かさと生々しさの混在する“現在”です」

いつ、誰と、どこで、何をしたのか。どんなことを話し、なぜそう思ったのか。そういう細かな部分で、個々の記憶や時間感覚が少しずつズレていく。それぞれは自分の記憶を頼りに会話をしているものの、いろんなところに微妙なねじれが生じていて、そこが作品の魅力になっているという。

「僕たち人間は、意識的にせよ無意識的にせよ、記憶を都合よくねじ曲げたり、書き換えたりしながら生きていますよね。物事の“真偽”って、実は区別がつきづらいものだと思います。だからこの劇は、ある意味で人間の最もリアルな姿を描いているようにも見て取れる。わかりやすく端的な説明ばかりが求められる現代にあって、大いにやるべき作品だと感じています。演じる側にとっても、ある意味で自分に嘘をつき続ける体験になるので、精神的には大変でしょうが、期待は膨らんでゆきます。今回、ずっと葛河思潮社の舞台に出てくれている田中さんと松雪さんとまたご一緒したいと思ったのは、言語に尽くせない新しい体験をシェアできる方々だからです。ふたりは稽古というものを極めて重要視していて、効率的にただ稽古を進めていくだけではいい作品は生まれないということを熟知している。稽古場での苦労の痕跡が『背信』のおもしろさに直接つながって行くと思うので、ふたりと積み上げていく稽古が、今から楽しみです」

不倫関係にとどまらず、過去も、記憶も、演劇的なルールも、そして「わかりやすさ」という現代的な物事の捉え方をもじわじわ裏切っていくこの『背信』。そう考えると、実に意味深なタイトルである。観客にとっても、不思議な演劇体験になるはずだ。

9月10日(水)からKAAT神奈川芸術劇場大スタジオ、9月18日(木)から東京芸術劇場シアターイーストにて。

取材・文:清田隆之

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