そんなバーテンババ君を皆は好いてるのか嫌ってるのか、
「彼氏ができた」「彼女ができた」といちいち報告しにくる輩が多い。
くるくるマドラーをかきまぜながら、「私にとって2月14日が呪いの日です。
リア充は敵です、みんなみんな死ねばいい」とババ君が言うと、
皆があははははとのどかに笑う。
「負けずに彼女作ればいいじゃん」「ちょっとおでこあがってきたんじゃないの」
などとやり返されている。
さて続いて何を飲もうかと悩む。

 

「レッドは飲んだことないなあ。どんなですか」と聞くと、
「これはですね、一言で言うと青春の味です。若い頃に酒が飲みたい、でもお金がない、そんな時代に愛されたのがレッドですね」
「つまり、一番下のほう~のお酒ってことですかね」
「そうです、最下層で最高に熱い青春の味です。真っ先にこれ飲む人はあまりいません」
じつにわかりやすい説明だ。
その3分後、やってきた男子がまんまと最初に「レッドで」と頼むので、
思わず面目なさげなババ君をよそに、まじまじと顔を見てしまった。

 

最後、隣り合わせた青年にすすめられたのが養命酒のソーダ割。
ババ君曰く、養命酒の歴史は江戸時代初期にまで遡るんだそうだ。
ほのかに甘く爽やかで体にしみわたる。旨し旨し。
気づけば二時間強滞在。
「また来ます。合い言葉は、リア充は敵ってことで」
「そうです。リア充は敵! またのご来店お待ちしております」
広くなった(?)と評判の額をひからせながらババ君は礼儀正しくお辞儀をした。

<今夜のお勘定>
チャージ100円
ビール 350円
鴨 300円
黒角 280円
養命酒ソーダ割り300円
合計1,330円

【店舗情報】
立ち飲み 泡 AWA
住所:東京都中野区中野5-63-2
営業時間:16時~25時  無休 

文筆業。大阪府出身。日本大学芸術学部卒。趣味は町歩きと横丁さんぽ、全国の妖怪めぐり。著書に、エッセイ集「にんげんラブラブ交差点」、「愛される酔っぱらいになるための99の方法〜読みキャベ」(交通新聞社)、「東京★千円で酔える店」(メディアファクトリー)など。「散歩の達人」、「旅の手帖」、「東京人」で執筆。共同通信社連載「つぶやき酒場deep」を連載。