OFFICE SHIKA PRODUCE『山犬』 撮影:和田咲子 OFFICE SHIKA PRODUCE『山犬』 撮影:和田咲子

劇団鹿殺しを手がけるOFFICE SHIKAが、『ジルゼの事情』(今秋再演予定)に続くプロデュース公演第2弾を発表。8年前に鹿殺しの番外公演として初演された『山犬』を、丸尾丸一郎が自らリメイクする。そこで8月7日、東京・座・高円寺1で開幕した初日公演を観劇した。

OFFICE SHIKA PRODUCE『山犬』チケット情報

“テラニシカツヒコ”と名乗る同級生から手紙を受け取り、久々に再会したユキ、イイダ、ヒロキの3人。彼らは差出人が誰なのかよく思い出せないまま、手紙に導かれ母校の裏山へと向かう。そこにはタイムカプセルが埋まっており、中には3人の思い出の品とともに、人骨と“テラニシカツヒコ”の名札が……。その後次々と何者かに襲われた3人は、或るいわくつきの山小屋に監禁されてしまう。そこで彼らに突きつけられたのは、「シヌキデオモイダセ」のメッセージ――。

苦々しくも光差す青春ドラマを、持ち前の暑苦しいほどのエネルギーで表現してきた鹿殺し。本作ではその熱量が狂気というベクトルへ向かい、心身ともにリミッターを超えてしまった人間たちの、壮絶な姿を浮かび上がらせる。物語の伏線となるのは、過去に起きた非常にささいな出来事。しかしそれらが積み重なり、複雑に絡み合っていくことで、監禁という恐怖の事件を引き起こしてしまう。作・演出の丸尾が描き出すのは、観客をも引き込む驚愕の密室ホラー。だがその先に見えてくるのは、やるせないほどの純愛物語である。

本作のキーパーソンであるテラニシを演じるのは、唯一無二の演説芸を確立し、カルト的な人気を誇る鳥肌実。何者かつかめない怪しさの中に、愛を求める孤独な精神をにじませる。紅一点のユキ役には、AV女優としてデビューし、引退後の現在は多方面で活躍を見せる森下くるみ。初舞台とは思えない堂々たる演技を披露し、特にラストのひと言は強い印象を残す。さらに“或る男”として文字通り舞台上を飛び回るのは、世界レベルのストリートダンサーであるISOPP。彼の存在、いや肉体が本作に与えた効果は非常に大きく、今後もさまざまな作品で出会いたい才能のひとりである。

イイダ、ヒロキを演じるのは、鹿殺し劇団員であるオレノグラフィティと山岸門人。本公演での芝居ではポップさを感じさせるふたりだが、今回は人間の持ついやらしさや生々しさを前面に押し出し、精神的なホラー性を体現してみせる。近年の舞台にはあまり見られない本格的なホラー作品でありつつ、丸尾らしい愛しさをも感じられる一作だ。

公演は8月17日(日)まで。その後、8月21日(木)から24日(日)まで大阪・ABCホールでも上演。チケット発売中。

取材・文:野上瑠美子