ミュージカル『I DO! I DO!』より。右から霧矢大夢、福井貴一  撮影:森口奈々 ミュージカル『I DO! I DO!』より。右から霧矢大夢、福井貴一  撮影:森口奈々

ミュージカル『I DO! I DO!』が東京・赤坂RED/THEATERにて上演中だ。『ファンタスティックス』のトム・ジョーンズ(脚本・作詞)とハーヴィー・シュミット(作曲)のコンビが手掛けた、50年の時を伴走する夫婦を描いたふたり芝居である。妻アグネスを演じる霧矢大夢とペアを組む夫マイケル役には、福井貴一と柳瀬大輔のWキャスト。主にグランドミュージカルに出演していた実力派の3人が200席にも満たない小劇場に登場するとあって、開幕前から話題騒然となっていた注目作だ。

ミュージカル『I DO! I DO!』チケット情報

舞台中央に置かれた四柱のあるクラシカルなダブルベッドは、これから始まるふたりの、波打つ50年のメインステージとなる。舞台両サイドから繰り出される2台のピアノ演奏によって、まずは結婚の誓い「I DO!」からスタートだ。霧矢と柳瀬のペア(初日公演)が観客のまさに目の前、小劇場の緊密空間で小粋に歌い踊る。その幕開きに圧倒された客席からは驚喜の戸惑いが感じられたが、幸せ一杯の新婚夫婦が通路に降りてきた途端、自然に拍手が沸き起こった。観客の表情が、結婚式に招かれた友人のように心からふたりを祝福する笑顔になっている。小劇場ならではの一体感を早くも生み出した、巧い導入だ。

子育て、生活の不安、相手に対する疑惑……、結婚生活の中で必ずや訪れるであろう局面を、耳馴染みの良いメロディに乗せてコミカルにテンポよく表現していくふたり。特にお互いへの不満を辛辣に放った歌詞が愉快だ。マイケルの容赦ない女性批判に対し、頬を膨らませて睨みつける霧矢アグネスがたまらなく愛らしい。客席を占めているのは圧倒的に女性なので、俄然アグネスを応援する空気となってマイケルには少々形勢不利。だが不器用な愛情を大きな体躯で懸命に表そうとする柳瀬マイケルの熱演に、許容とともに自己反省の気持ちも沸き上がる。男性が観た場合にアグネスに対してどのような感情を持つのか、気になるところだ。

子供が巣立ち、破局の危機にも向き合うが、夫婦はお互いを思いやりながらつながりを保っていく。ふたりが「いつかやってみたかった」と、それぞれ憧れていた楽器の生演奏に挑戦するシーンは楽しい見どころだ。幕開きからラストまで人生で起こる身近な出来事が次々に展開。その一つひとつに共感し、時にせつなさや苦笑いを引き出されることはあっても、感情を大きく揺さぶられる事件は起こらない。しかし50年間寄り添ったふたりの後ろ姿が並ぶラストシーンに、不意に激しく胸を突かれた。結婚の素晴らしさを歌う作品を通して、その形式を越えた人と人とのつながり、支え合い結びつく力の大切さをすくいあげた、演出の大河内直子のきめの細かい仕事が光る。24日(日)まで。

なお、チケットぴあでは8月15日(金)から22日(金)公演分の当日引換券を8月12日(火)10時より発売する。

取材・文:上野紀子