麻実れい  撮影:黒豆直樹 麻実れい  撮影:黒豆直樹

「これまで強い女ばかりを演じてきましたから」。冗談めかしに自負を込めて語る麻実れい。そんな彼女をして「これまでにない大きな壁にぶつかることになるかも」と言わしめたのがこの作品。レバノン生まれのワジディ・ムワワドが、自身の経験を元に書き上げた戯曲『炎 アンサンディ』である。レバノン内戦のさなか、苛烈な人生を歩む女性・ナワル。その10代から60代までをひとりで演じる麻実に話を聞いた。

舞台『炎 アンサンディ』 チケット情報

ナワルの実の子である姉弟が、心を閉ざしたままこの世を去った母の遺言に従い、赴いた母の故郷・中東で、その数奇な人生と対峙していくさまを描いた本作。台本を読みながら麻実は「哀しすぎて痛すぎて、涙が止まらなかった」という。

「いま、まさに世界で起きていることと重なる部分が多くて、現実に放り込まれたかのような感覚を味わいました。でも読み進めると“生きる意味”や“尊厳”というものが待っていてくれるんです」とこの本が持つ深みを説明する。

レバノンと言われても多くの日本人にとって決して近い存在とは言えないが、麻実には実は意外な繋がりが。彼女の長男の配偶者がレバノン人女性で、数年前には結婚式のためにこの国を訪れ、自然の豊かさ、情熱的な人々に触れると共に、各地に残る内戦の爪痕も目にした。「ご縁なのかもしれない」。いまも内戦のさなかにある彼の地に思いを巡らせ、本作との出会いをそう語る。

14歳で恋人の子を身ごもるナワル。麻実は実に50歳の年齢差を埋めること、そして彼女が年齢を重ね変化していくさまを表現することを求められるが、本作の魅力として挙げる「詩的で知的、抽象的な言葉遣い」が大切な武器となるという。

「この美しい言葉の流れを辿っていくことで最後までいけると信じています。『私は14歳』と作り込んでしまうと、このお話の鋭さからずれてしまう。作るのでも演じるのでもなく、そのまま自然にこの中に飛び込んで、この物語の本髄を追っていければと思っています」。

ナワルの人生や決断、最後にたどりつく境地を理解できるか? そんな問いに麻実は力強くうなずく。

「いまはいただいたセリフを体に通し、それを出す作業にまで至っておらず、声も出さずに目で追って、何を感じるのか? という段階。それでも、女の性(さが)として十分すぎるほど彼女を理解できます」。

ここから稽古での積み重ねを経て、どんな女性の人生を見せてくれるのか? 楽しみに待ちたい。公演は9月28日(日)から10月15日(水)まで東京・シアタートラムにて。

取材・文:黒豆直樹