フランスやアメリカでは、仕事以外の理由でも子どもをベビーシッターに預けるのが一般的と言われています。

日本では他人に子どもを預けることをまだためらう人も多いようですが、待機児童がなかなか減らず、ワンオペ育児が社会問題になっている背景を考えると、子どもを預けるという選択肢が一般化していく可能性はあります。

となると、問題は「子どもを預けることで生じる罪悪感」をどうするか、ということになると思うのですが、罪悪感さえなくなれば、いくらでも子どもを預けていいものなのでしょうか。

フランス人の子育てというと、この手の罪悪感とは無縁のようなイメージがありますが、今回ご紹介するフランスの小説を読んで、少し印象が変わりました。

2016年にフランスのゴンクール賞を受賞した『ヌヌ 完璧なベビーシッター 』(レイラ・スリマニ著/集英社文庫) には、弁護士の資格を持て余し子育てに埋没する自分に戸惑いながらも、初めはベビーシッターに子どもを預けることに懐疑的な母親(ミリアム)が出てきます。どこかで聞いたような話ではありませんか?

親より子どもと一緒にいる時間が長いことも?

その後、ミリアムは仕事に復帰し、ベビーシッターを雇うことになります。

厳しい条件と面接を突破してミリアムと夫の前に現れたのは、子どもたちの世話だけでなく、家事までを完璧にこなすベビーシッター、ルイーズでした。

ミリアムも夫のポールも、彼女に魅了されます。家族旅行にもついてきてもらうなど、家族同然の扱いをされてきたルイーズが、預かっていた子どもたちを殺害してしまうというショッキングな内容なのですが、実は、この話にはモデルとなる事件があります。

2013年、アメリカのニューヨークで、2年以上の雇用関係にあったベビーシッターがシッター先の子ども2人を殺害した事件です。ベビーシッターは精神的な疾患があり、殺害理由に関しては語っていないようです。

『ヌヌ 完璧なベビーシッター』の作者のレイラ・スリマニは、この事件を機に本作を書き始めたそうです。

レイラの母親は医師で、レイラは住み込みのベビーシッターを始め、小学校に上がるまでに複数のベビーシッターに育てられました。

以下、訳者あとがきより抜粋します。

第二の母という意味のアラビア語で彼女たちを呼び、ともすると実の母親以上になついて、甘えて、信頼していたのに、ある日突然、彼女の姿が消える。肉親のように慕っていた人が、結局は単なる使用人として去っていく。愛情には違いないのに常に曖昧さをはらんだこの関係が、レイラは幼い頃からずっと気になっていた。
『ヌヌ 完璧なベビーシッター』(レイラ・スリマニ著/集英社文庫)

たしかに、子どもにしたら、食べさせてくれて、遊んでくれて、お風呂に入れてくれて、そして絵本を読み、寝かしつけてくれる人によりなつくのは、自然といえば自然です。

多くの親はそこまで子どもを預けっぱなしにすることには罪悪感を持つでしょうし、親の立場は譲れないと思うかもしれませんが、本作に出てくるベビーシッターは完璧すぎました。

子どもたちを手なずけるだけでなく、ミリアムたちの胃袋や、キレイな家に住みたいという欲まで満たしてくれたのです。

こうなると、親は何の気兼ねもなく、仕事に没頭できます。