昨年5月、NTTドコモは「ツートップ戦略」と銘打って、「Xperia A(エース) SO-04E」と「GALAXY S4 SC-04E」の2機種を宣伝や価格面で強くプッシュした。「ドコモのツートップ」というインパクトのあるキャッチコピーとともに大量に投下した広告の効果などもあって2機種とも売れ、特に、実質負担額が安く、コンパクトな「Xperia A SO-04E」は人気を集めた。さらに昨年9月、ドコモはそれまで否定的だったiPhoneの取扱いを開始。手のひらを返したようにiPhoneをプッシュし始めた。今年6月には、音声通話定額・データ通信従量制の「新料金プラン」を導入。他社も追従し、スマートフォンの料金体系はがらりと変わった。昨年以来、こうしたドコモの戦略に対しては賛否両論が巻き起こっている。

●「ツートップ」対決は、ほぼ6対4で「Xperia A」の圧勝に終わる

家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」によると、「ツートップ」の対決の結果は、最終的に「Xperia A SO-04E」の圧勝に終わった。「Xperia A SO-04E」と「GALAXY S4 SC-04E」の累計販売台数の比率はほぼ6対4。発売当初から「Xperia A SO-04E」に人気が集中し、「GALAXY S4 SC-04E」が盛り返した時期もあったが、差は縮まらず、半々にはならなかった。

昨年ドコモが掲げた「ツートップ戦略」は、従来型携帯電話からスマートフォンへの買替えを促し、スマートフォンの普及を加速させた。現在、ドコモとauが取り扱っているソニーモバイルコミュニケーションズ(ソニーモバイル)の「Xperia」ブランドの国内での認知度アップにもつながった。一方、「ツートップ」対決で負けた「GALAXY」は「売れていない」とみられてしまい、逆効果だったかもしれない。

「Xperia A SO-04E」と「GALAXY S4 SC-04E」は、発売から半年以上たった今年3月頃まで売れ続け、モデルチェンジのスパンの短いAndroid搭載スマートフォンとしてはロングセラーとなった。2013年5月から今年7月までの累計販売台数は、アップルの「iPhone 5s」「iPhone 5」「iPhone 5c」に次ぐ4位と5位。ドコモに限ると2位と3位で、合算すると1位の「iPhone 5s」にほぼ匹敵する。「Xperia A SO-04E」はもちろん、「GALAXY S4 SC-04E」も、2013年を代表するヒット機種といっていい。

ドコモは、最新の2014年夏モデルでは、昨年のようにオススメ機種を定めていない。その影響もあって、「ツートップ」の後継機種にあたる「Xperia A2 SO-04F」「GALAXY S5 SC-04F」はあまり話題にならず、販売台数は前機種を大幅に下回っている。ジャンルを問わず、安さやコストパフォーマンスは最大の強み。性能やデザインなど端末自体の魅力以上に、手頃な価格と話題性で売れていたようだ。

●ドコモのiPhone参入が追い打ち 変わるメーカー勢力図

「ツートップ戦略」は、結果として売れ行き不振だったメーカーの撤退を招いた。さらに、ドコモのiPhone参入・取扱いキャリア増加によって、一時は、アップルだけでスマートフォン全体の7割近くを占めるという超寡占状態を生んだ。今年4月以降、アップルのシェアは、以前よりやや高い程度の水準に戻り、2位グループとして、「Xperia」のソニーモバイルと、ディスプレイいっぱいに画面が広がる狭額縁デザイン「EDGEST(エッジスト)」を打ち出したシャープが続く。

新たな動きとして、昨年夏、スマートフォン事業から撤退し、従来型携帯電話に専念したパナソニックモバイル コミュニケーションズ、NECカシオモバイルコミュニケーションズに代わって、auオリジナルスマートフォン「isai」や、Googleブランドの「Nexus 5」が売れたLGエレクトロニクス、初心者向けの「URBANO」シリーズなどを手がける京セラが躍進した。

ただし、アップル以外の多くのメーカーは、2013年9月以降、おおむね前年割れで販売台数減を余儀なくされている。ドコモをはじめとするキャリアの戦略によって、明暗が分かれたかたちだ。ソニーモバイル、シャープ、LG、京セラは月によっては前年を超え、なかでもシャープは、夏モデル発売後の今年5~7月は前年同月比116.8~171.2%と好調だ。トップを独走し、今年3月に前年の2倍以上となるケタ違いの販売台数を叩き出したアップルも、4月以降は前年の6~9割程度にとどまり、スマートフォンの販売規模は急激に縮小しつつある。

●転換点は昨年5月――新料金プランは実質値上げ

当時、一定の成功を収めたとされ、今となってはすっかり忘れられたドコモの「ツートップ戦略」と、それに続くドコモの「iPhone参入」こそ、今年2~3月の過剰なキャッシュバック競争と、その反動による4月以降のスマートフォン販売の低迷、さらには音声通話を利用しない層にとっての実質的な値上げ・負担増となる横並びの新料金プランを生み出したきっかけではないだろうか。意図的なものか、偶然の結果かどうかはわからないが、振り返ると、転換点は昨年5月だったようだ。(BCN・嵯峨野 芙美)

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