三宅弘城 三宅弘城

ナイロン100℃の次回公演は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が2年ぶりに劇団に書き下ろす『社長吸血記』。タイトルも謎めくその作品のユニークさは、イメージビジュアルにも表れている。これまでの公演でも、毎回凝ったビジュアルを作り上げてきたナイロン100℃だが、今回の不可思議さはまた格別だ。何しろ、サラリーマンとOLに扮した役者たちが、縄でグルグルに巻かれて逆さまに吊るされているのだから。その異様なビジュアルはどのようにして出来上がったのか。撮影現場には、独特な興奮があった。

ナイロン100℃『社長吸血記』チケット情報

撮影場所に入ってまず目に飛び込んできたのは、今からロープで縛られようとしている三宅弘城の姿だった。濃紺のデキるサラリーマン風のスーツをまといながら、スタッフになされるがまま縛られていく三宅。もはや動かせるのは左手のみという状態になって、カメラの前に立つ。そこで要求されたのは、その左手だけでサラリーマンの日常を思わせる動きをつけることだ。頭を掻いて困ってみたり、アゴに手を当てて考え込んだり、不自由な中であらゆるパターンを披露する。それは、続く鈴木杏、喜安浩平、話題のお笑いコンビ「かもめんたる」の岩崎う大、槙尾ユウスケも同様だった。右手が少し動くだけの鈴木、亀甲縛りに鎖の足かせも付けられた喜安、手首まで縛られた岩崎、後ろ手に縛られて身動きの取れない横尾。彼らはまさに、上司や組織に縛られ抑圧されて働く人々の姿そのものだというわけである。縛られながら一生懸命に面白いポーズを繰り出す様子も、切なさを増幅させる。中でも鈴木は、昭和喜劇風のおかしな顔や動きを思い切りよく見せて、その場を劇場さながらにした。また、逆さまに吊るされた出来上がりを想定して髪の毛が逆立っているからだろうか。どの役者にも、面白さだけでなく変な怖さがあった。

KERAによると、これは悪夢のような演劇になるらしい。「得体の知れない抽象的な悪夢です。不条理劇なのに体裁はサラリーマン喜劇なのが、いよいよ始末に負えない、今はそんな感じの舞台を作ってみたいのです」というコメントを寄せている。それを表すかのように、縄をほどいてからの撮影で三宅は、豚の頭を乗せたパソコンを持たされ、変顔を繰り広げていた。シュール過ぎる。喜劇の中にある陰惨。悲劇の中にあるおかしみ。KERAと役者たちが目指す想像もつかない世界を、今はただ楽しみに待つしかない。

9月26日(金)から10月19日(日)まで東京・本多劇場にて。その後、福岡、大阪、新潟でも公演。

取材・文:大内弓子

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