近年のスカーレット・ヨハンソンは『アベンジャーズ』シリーズのブラック・ウィドー役のイメージが強いだろう。あの役に出会うまでは、ロマコメの印象が強い女優だったのに、一気にイメチェンしてしまった。まるで『96時間』シリーズで人生が変わったリーアム・ニーソンのよう。そんなスカヨハの最新作は、もろブラック・ウィドー的な“強い女”を極限まで高めた役。『LUCY /ルーシー』は、そんな作品だ。
台北のホテルでトラブルに巻きこまれたルーシーは、アジアマフィアの片棒を担ぐことに。それは、ある薬物を体内に仕込み、他の国へ密輸すること。ところが、渡航前に彼女の体内で薬物が漏れ出してしまう。その薬物には、人間の脳活動を活性化する働きがあり、最大限の効果を発揮すると普段は使われていないという9割方の脳活動を覚醒することができるというものだった。
これだけ聞くと、薬のおかげで彼女はキレモノになって、マフィアをやっつけるヒロインムービーのように聞こえる。だがしかし、脳の覚醒というのはもっと奥深いことのようだ。実際、この映画の脚本を受けたスカヨハは最初「まったく意味がわからなかった」とか。人間の脳については、まだ解明されていないことが数多くあり、しかもその大半は使われないまま生涯を終えるのが普通らしい。そこに着目したリュック・ベッソンは、脳の覚醒を“知性の増幅”ではなく“人智を越えた存在の誕生”ととらえた。アプローチは違うがジョニー・デップ主演のAIにまつわるSFスリラー『トランセンデンス』によく似ている。
ルーシーが得たものは、圧倒的なパワー。最初からその力に戸惑いなく、あれよあれよという間にスーパーウーマン化していく。その様はまるでブラック・ウィドーかそれ以上。観客が求めるスカヨハ像そのものだ。特にルーシーが脳科学者にアプローチを試みる中盤以降は、向かうところ敵なし。そして脳の力がフルスロットルになるにしたがって、ありえない現象も起き始める。それがいわゆるヒーロー映画よりもエキサイトできるポイント。ルーシーの行く末がどうなるのか、想像以上の結末を楽しんでもらいたい。
『LUCY/ルーシー』
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文:よしひろまさみち