象印マホービンの市川典男社長が「社運をかけた商品」と語った炊飯器が、7月21日発売の「圧力IH炊飯ジャー 炎舞(えんぶ)炊き NW-KA型」だ。

人気の「南部鉄器 極め羽釜」の生産を完了

同社は、2011年に「南部鉄器 極め羽釜」を発売。価格は10万円以上だったが、岩手県の工芸品である南部鉄器の内釜を採用して人気を博した。15年の訪日外国人による「爆買い」ブームでは、ニュースでたびたび取り上げられて注目を集めた。まさに高級IHジャー炊飯器の代名詞だ。

ところが今回、南部鉄器 極め羽釜の生産を一部の小容量炊きを除いて完了し、炎舞炊きに刷新。人気シリーズを自ら封印して新製品にかけるというのは、確かに「社運をかけた」決断だ。

「創業100周年の記念すべき年に、最高傑作の美味しい炊飯器ができた」と西野尚至広報部長は自信を示す。その自信は、かまど炊きの火のゆらぎをIH加熱で再現した業界初の炊き方にある。

三つのIHが独立制御しながら加熱

通常の炊飯器は、釜底にIHヒーターのコイルがまかれている。一見すると二重だが、実は内側と外側はつながっているため一重と同じである。象印でも熱を強火で均一に加熱する理想の構造として採用してきた。しかし、実際のかまど炊きの炎を観察すると、炎は前後左右に複雑にゆらぎながら、部分的に加熱していることに気づいた。内釜の温度を計測すると、高温の部分がゆらぎながら常に移動していることが分かった。

そこで、炎舞炊きでは釜底の3か所にIHコイルをまく「ローテーションIH構造」を採用。三つのIHを独立して制御しながら、炎と同じゆらぎを再現した。

3か所にIHコイルをまく方式は、火力が分散して弱まるのではないかとの考えがちだが、ローテーションIH構造は、加熱時の1240W(10合炊きの場合)を三つに分散するのではなく、1か所に1240Wの火力を集中し、ほかの2か所はオフにする。これをコンマ数秒の速さで瞬時に切り替えながら加熱しているのだ。

ローテーションIH構造で加熱することで、大火力を加えながら、内釜のなかの対流は複雑に絡み合い、炊飯中の米と水が大きく混ざって炊きムラが抑えられる。

大火力であることを数字でも実証している。単位面積あたりの火力で比較すると、17年モデルでは3.0W/cm2だったのが、炎舞炊きでは4倍の12.5W/cm2になった。ちなみに、かまどの炎を電力で示すと約2750Wになり、100Vの日本の電力では再現できないのだが、単位面積あたりで示すと6.0W/cm2になるという。つまり、炎舞炊きは日本の電力事情を踏まえても、かまどの炎と比べても2倍以上の強い火力を加えることができるのだ。

内釜の構造も、釜全体が浅底だった南部鉄器 極め羽釜では熱伝導性が弱くても問題はなかったが、底が深い炎舞炊きの「豪炎かまど釜」では熱伝導性を高める必要があった。そこで、IHに相性のいい「鉄」に、熱伝導にすぐれた「アルミ」、蓄熱性と耐久性にすぐれた「ステンレス」を組み合わせた新形状の内釜をつくった。なお、深底の内釜を開発したことで、8年ぶりとなる1升炊きタイプの発売も可能になった。カラーも和を感じさせる「黒漆」と清潔感とやさしい印象の「雪白」の2色で展開する。

炊き上がりのごはんの特徴は、粒が感じられる「かたさ」がありながら、「粘り」のある食感と、甘さが感じられる。これまでになかった、まったく新しい加熱構造の炎舞炊きは、この秋の注目機種になるのは間違いない。価格はオープンだが、税別の実勢価格は10合炊きの「NW-KA10」が12万円前後、1升炊きの「NW-KA18」が12万5000円前後の見込み。(BCN・細田 立圭志)